【10月11日 AFP】2人のフランス国王のものとされていた不気味な遺物「ルイ16世(Louis XVI)の血痕が付いた布片」と「アンリ4世(Henri IV)のミイラ化した頭部」が、DNA鑑定によって本物ではないことが分かったとの論文が9日、英科学誌「ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・ヒューマン・ジェネティクス(European Journal of Human Genetics)」に発表された。

 論文によると、現在生存している2国王の子孫3人のDNAを分析した結果、遺物から採取した遺伝子との関連性は存在しなかったという。

 ルイ16世は、フランス革命中の1793年1月21日、王妃マリー・アントワネット(Marie-Antoinette)と共にパリ(Paris)で革命派によって斬首刑に処された。布片に付いた血痕はその際に流れたルイ16世の血とされ、華美な装飾が施されたヒョウタン製の容器に保存されてきたが、論文の共著者でベルギー人遺伝学者のジャンジャック・カシマン(Jean-Jacques Cassiman)氏は「これはルイ16世の血ではない」と断言している。

 また、ルイ16世の祖先に当たるアンリ4世のものとされてきたミイラ化した頭部については、これまで他の研究者らが血痕の付いた布片との遺伝的関連性を指摘していたが、今回の研究はこれを否定している。

 アンリ4世は1610年、狂信的なカトリック教徒によって57歳で暗殺された。その後、ルイ16世が処刑されたフランス革命では、群衆がパリ北郊のサン・ドニ(Saint Denis)大聖堂を荒らし、アンリ4世など歴代国王の遺体を墓から引きずり出してバラバラに切断し、穴に埋めた。

 この混乱の中で、ある個人が切断された頭部を回収したという記録が残っており、アンリ4世のものと長く信じられてきた。頭部はその後200年間、競売にかけられたり個人収集家に収蔵されるなどして、何人もの所有者の手から手へと渡ってきた。

 この頭部については、フランス人法医学者のフィリップ・シャルリエ(Philippe Charlier)氏率いる研究チームが2010年、16世紀に描かれたアンリ4世の肖像画と一致する身体的特徴や、放射性炭素年代測定法、3DスキャンとX線撮影で得られたデータに基づき、この頭部がアンリ4世のものである証拠を得たと発表した。だが、シャルリエ氏の研究チームの調査では、DNAは見つかっておらず、結果を疑問視する声も上がっていた。

 さらにシャルリエ氏は2012年、スペイン人古遺伝学者のカルレス・ラルエサフォックス(Carles Lalueza-Fox)氏と共に、この頭部とヒョウタンの中に収められていた血染めのハンカチとの間にDNAの関連性を発見したとする論文を発表した。

 革命の英雄たちを描いた装飾と「1月21日、Maximilien Bourdaloueは、ルイ16世の断頭後に流れた血にハンカチを浸した」との文章が刻まれていたこのヒョウタンは、あるイタリア人家族が100年以上所有していた。3年前には、このヒョウタンの中から採取したDNAの分析により、ルイ16世の人相と合致する人物のものである可能性が高いとの結果が出ていた。

 だが、王家の血縁者のDNAが得られなかったので、研究者らは血痕がルイ16世のものであると完全に証明することができなかった。昨年になって初めて、シャルリエ氏とラルエサフォックス氏がミイラ化した頭部から遺伝物質を取り出し、7世代離れた2人の王の間の遺伝的関連性を明らかにしたと発表した。

 ところが今回の研究は、両氏の研究結果に異論を唱えている。

 カシマン氏の研究チームは、アンリ4世の息子ルイ13世(Louis XIII)の血を受け継ぐブルボン王家の子孫3人のDNAを検査した。その結果、ルイ13世から男系子孫に受け継がれてきた同じY染色体を、この3人が持っていることが分かったという。そしてこの「本物」のブルボン家子孫のDNAは、2つの遺物から見つかったDNAと一致しなかった。

 シャルリエ氏はこれに対して「それぞれの王の父系に関する不確実性を考慮すると、ブルボン家の遺伝子系統樹を作成するのは困難だ」と反論している。シャルリエ氏は、自身の研究で明らかにした人類学的・歴史学的な23の「形態学的論拠」は、「頭部がアンリ4世のものであることを、合理的疑いを超えて立証することができる」ものだと主張。この論拠により、血痕との遺伝的関連性を導き出すことが可能になったと述べている。(c)AFP/Véronique MARTINACHE