【9月17日 senken h】伝統工芸が息づく街、石川県金沢市。加賀友禅や九谷焼、金沢漆器など古くから続く技術が現在まで受け継がれている。その金沢で今、若い作り手が活動の幅を広げている。伝統的な技術をベースにしながら、今の感性を反映させたプロダクトは、一見伝統を感じさせない「新しいもの」として人気を集めている。

 どんな人が、どんな思いでモノ作りをしているのか。その顔が知りたくなり、作り手の方々に話を聞いてきた。

■使って喜んでもらえるものを作りたい/秋友美穂さん
 秋友さんは、金沢にアトリエを構える金工作家。出身は名古屋だが、金沢美術工芸大学に入学して初めて訪れたこの地に魅了され、今ではすっかり金沢の人だ。

 秋友さんが扱うのは主にシルバー。学生時代には真鍮(しんちゅう)や銅での作品制作も行っていたが、「今は、手に取って使ってもらうほうが多くの方に喜びを感じてもらえる」とアクセサリーを制作している。さまざまなモチーフがある中で代表作となっているのが「コンペイトウシリーズ」。最初からモチーフにしようとした訳ではなく「金属を溶かすのが楽しくて、遊んでいたらできてしまった」という偶然の産物だが、今ではコンスタントに売れる人気商品となった。

 アトリエを構える前は、金沢市が空いていた町家を改装して09年にオープンした「金澤町家職人工房 東山」で3年間、創作活動を行っていた。ギャラリーに来る人の声をダイレクトに聞けた経験は、現在の作品にも良い影響を与えているという。現在は、工芸などを扱うショップでの販売が中心だが、これからも物の背景を分かってもらえるような形で大切に販売していきたいという。

 金澤町家職人工房 東山は金沢市が運営する施設の一つ。街なかの町家を整備活用し、若手工芸作家などに工房を貸し出すことで独立を支援している。秋友さんもここで創作活動を行っていた。現在は前田真知子さん(金工作家)が活動中で、ギャラリーも併設している。

■蒔絵(まきえ)の新しいクリエイション/Classic Ko(大下香仙工房)大下香征さん
Classic Ko(大下香仙工房)は、1894年から代々続く加賀蒔絵の工房。金沢から特急電車で約30分の加賀温泉駅の近くに工房を構え、個性豊かな家族スタッフで構成される。抹茶を入れるための茶器である棗(なつめ)や高級蒔絵万年筆に使われる伝統の技術を駆使しながら、現在では「普段着の漆・蒔絵もの」も提案している。

 オリジナルのジュエリーブランド「Classic Ko」は、「良いモノを普段使いする楽しみを届けたい」と、5代目の大下香征さんを中心に08年にスタートした。漆、貝、金属といった素材の組み合わせや、多国籍なモチーフのミックス感が特徴。蒔絵というとどうしても「伝統」の色眼鏡で見られがちだが、店頭でふと見ればそんなことも感じさせない雰囲気を持っている。それでも「商品との出会い方を大事に、伝統技術の何が良いのか、それを改めて今の人々に伝えることは怠ってはいけないし、そのストーリーも含めて感じてもらえれば」と大下さん。人々の製法や産地、作り手に対する関心の高まりは感じているといい、ワークショップの開催なども増やしていく予定だ。

■挑戦する地元産業の発信の場/ARICATA
 伝統工芸に限らず、地元産業との取り組みで新しいデザインを発信していこうとするプロジェクトが「ARICATA」。今年スタートしたこの取り組みは、千葉出身でありながら金沢を拠点に活動するデザイナーの原嶋亮輔さんが「金沢にいて、東京などに比べてモノ作りが近く感じた」ことで「ここから発信していける」との確信をもって始めた。
原嶋さんがディレクションやデザインを担当、編集・ライターの広本加奈恵さんが職人や工房の取材・執筆・コピーワークを担当している。

 プロダクトのラインナップはまだ少ないが、「ARICATAは、オリジナルブランドの名前というよりも、産業のあり方を考えたり、地元の企業が実験的な取り組みに挑戦してそれを発信したりするプラットホームとして育てていきたい」という。


◆秋には「おしゃれメッセ2013」が開催!
この秋も、金沢発のライフスタイルを発信する「おしゃれメッセ2013」が10月11~20日に開催される。会期中は、ファッションショーやクラフトマルシェなどイベントが盛りだくさん。10月11、12日の2日間は夜、しいのき迎賓館を舞台にしたプロジェクションマッピングが開催され、光と音のショーを見ることができるので、この機会にぜひ足を運んでほしい。(c)senken h

【関連情報】
Classic Ko 公式ホームページ<外部サイト>
ARICATA 公式ホームページ<外部サイト>
おしゃれメッセ2013 公式ホームページ<外部サイト>