【9月7日 AFP】東エルサレム(East Jerusalem)の自宅をイスラエル当局のブルドーザーに解体されたハレド・ジール・フセイニ(Khaled Zir al-Husseini)さんとその家族は、新しい住み家を探さなければならなかった。そこで一家は、自宅があった高台の下の洞窟に引っ越すことにした。

 破壊された自宅のがれきが、シルワン(Silwan)地区の道路に向かって高台の斜面を崩れ落ちている中、そのすぐ下にある若干15平方メートルの窮屈な新しい住み家には生ごみの悪臭が立ち込めていた。

 9歳を筆頭に6人いる娘の中で一番下の4か月になる娘を膝に乗せ、AFPの取材に応じたフセイニさんは「先週の火曜日(8月20日)の朝6時、ぐっすり眠っていたところを、エルサレム市当局のブルドーザーが私たちの家を壊し始めて目が覚めた」とその時を振り返る。「家を壊すまで5分待ってやるから家を出ろ、と言われたんだ」

 米ニューヨーク(New York)に本拠を置く国際人権団体ヒューマン・ライツ・ウオッチ(Human Rights WatchHRW)によると、その2日前から子供18人を含むパレスチナ人79人が、イスラエル占領下のヨルダン川西岸(West Bank)と、隣接する東エルサレムから強制的に立ち退かされた。その中にフセイニさん一家もいた。

 ヒューマン・ライツ・ウオッチは、「イスラエル軍が軍事作戦のための必要性を示さずに占領地で日常的に(パレスチナ人の)住宅の解体を繰り返しているのは、住民をその土地から追い出すのが唯一の目的のように思える。それは戦争犯罪だ」と言う。

 しかしエルサレム市当局は、「住宅の解体」は一切していないと否定し、フセイニさん一家が住んでいたのは「居住不可能なブリキの構造物」だったと強弁している。市の広報担当者は書面で「公園・自然当局は市と協力して、自然公園となる予定の公有地にあった居住不可能なブリキの構造物を撤去した。この地区では民間人による居住目的の土地利用はできない」と回答した。

■裁判所の最終判断を待たずに解体に着手

 2月に市当局は、計画中の自然公園を造るために自宅を解体するようフセイニさんに命じたが、フセイニさんの弁護士が不服を申し立てていた。フセイニさんによると「ブルドーザーが来たとき、裁判所の最終的な判断は出ていなかった」という。

「6か月前、エルサレム市当局は私に家の解体を求める書類をよこした。私はそれを弁護士に渡し、弁護士が不服を申し立てた。裁判所はまだこの件を調べている最中だったんだ。なのに市当局は勝手なことをして、警察までよこして私の家を壊していった」(フセイニさん)

 自分の家族のものだという土地にフセイニさんは、合板と金属を使って建てた60平方メートルの家に7年間暮らしていたが、その家はもはや完全にその姿を消した。自動車のタイヤで作った階段ががれきの山に続き、ほこりっぽい地面には引き抜かれた小さな木々が打ち捨てられている。

「ここは私の祖先の土地なんだ。ここを捨てるなんてことはしないよ」

 フセイニさんは挑発するようにパレスチナの旗を掲げている。ねじ曲がった金属のがれきと、根こそぎにされた家庭菜園の中に立つその旗は、エルサレム旧市街の城壁からも見ることができる。

「私たちはここにとどまる。やつらが私たちを殺すつもりでも、私たちはとどまる」とフセイニさんは言ったが、妻は広さに1人分の余裕がある両親の家に行ってしまったと付け加えた。

■ネタニヤフ政権下で3799人が家を失う

 フセイニさんの娘たちは洞窟に広げた大きな敷布の上で遊んでいた。奥にある壁のくぼみを寝室として使い、飼っているウマは「主室」のすぐ上にある別の空間にいた。

 娘たちは、父親が携帯ガスコンロで客にコーヒーを温めている間、箱入りのお菓子を分け合っていた。

 部屋の隅のテレビは、道を少し上ったところにあるフセイニさんの父親の家から長く延ばしたケーブルにつないでいる。夜間に新しい「家」の中を行き来するための強力な小型照明や、冷蔵庫まである。

 フセイニさんは取り壊された家から回収した木のドアをいくつか洞窟の奥に保管している。いつかもう一度わが家を建てられると思っているのだ。洞窟の入り口は、フセイニさんが合板で簡単に建てた壁1枚で道路の往来から仕切られているだけだ。「私には他に行くところもないからね」

 赤十字に連絡を取ろうとしたこともあるが、結局連絡は取れなかったという。地元のイスラム主義活動家が、ソファやコーヒーテーブルといった家具をいくつか買えるだけの現金を寄付してくれた。

 ヒューマン・ライツ・ウオッチによると、イスラエル軍は2013年に入って以降、パレスチナ人の住宅716軒を破壊している。東エルサレムで解体された住宅の数は昨年以降3倍に増え、ベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相が就任した2009年3月31日からこれまでに自宅を追われたパレスチナ人は3799人に上るという。(c)AFP/John DAVISON