【8月10日 AFP】(一部更新、写真追加)約40年前のベトナム戦争のさなか森の奥深くに身を潜め、そのまま暮らしてきたと思われる父とその息子が、地元当局によって故郷の村に連れ戻された。ベトナムの国営放送が9日報じた。

 現地のテレビは、木の皮で作った腰布1枚を巻いただけの、汚れて痩せ細った姿で遠く離れた山岳地帯から姿を現したホー・バン・タン(Ho Van Thanh)さん(82)とホー・バン・ラン(Ho Van Lang)さん(42)親子の7日撮影の映像を放映した。

 報道によるとベトナム戦争中にゲリラだったタンさんは、1972年に米国による空爆で母と2人の子どもを失い、悲しみに打ちひしがれながら当時2歳だった息子のランさんを連れ、中部クアンガイ(Quang Ngai)省の共産主義者の村から逃げ出した。

■木の上の小屋に住み、果物などで生き延びる

 隠れていたのは村から徒歩で数時間の山奥。テレビ映像からは、親子が明らかに自分たちの意思に反して村に連れ戻された様子が見て取れた。老いたホー・バン・タンさんは、住民たちによってハンモックに乗せられて運び込まれ、息子のホー・バン・ランさんは手をつかまれて連れ戻された。

 ベトナム国営紙トイチェ(Tuoi Tre)によると、2人は地上約5メートルの木の上に作った小屋に住んでいるところを見つかった。2人とも腰布以外は身に着けていなかった。一緒に手製の道具も見つかった。2人とも出身民族である「コー(Kor)」の言葉をほんの少し話すだけだった。2人は果実や自分たちで栽培したトウモロコシを食べて生き延びていた。

 オンライン新聞Dan Triが地元当局者の話として伝えたところによると、2人は2004年にもホー・バン・ランさんの弟によって村に連れ戻されたが、村の暮らしに適応できず森へ帰ったことがあるという。以来、弟が山中の2人を1年に1回訪れ、必要な物などを届けていた。

 しかし国営紙トイチェによると最近2人を見つけた住民から通報を受けた当局が7日に2人を連れ戻した。息子のランさんは「しきりにキンマの葉をかむか、たばこを吸い続け、自分を取り囲む人たちをだるそうな目で見つめていた」とトイチェ紙は伝えた。村に連れ戻されたタンさんは診察を受け、ランさんは親族と一緒にいるが、地元当局や親族は2人は普通の生活に適応できないのではないかと心配しているという。(c)AFP