【8月6日 AFP】果てしないウィリクタ(Wirikuta)の砂漠へ向かって、灼熱(しゃくねつ)の太陽の下を何時間も、重い足取りで歩くアルゼンチン人のジゼル・ベカーさん(26)が何としても手に入れようとしていたのは、メキシコの現地の人々が神聖視する幻覚性サボテン、「ペヨーテ」(和名:ウバタマ)だ。

 メキシコ人の3人の友人グループに加わったベカーさんは「トリップ(幻覚状態)のためのトリップ(旅行)」を求める新たな観光客の波の一部だった。ベカーさんにとってその「トリップ」に誘ってくれるのは学名「ロフォフォラウィリアムシイ(Lophophora williamsii)」という。

 ここまでヒッチハイクで700キロ移動してきたベカーさんは、メキシコ人の友人に「宝物は見つかった?」と聞く。彼らは砂漠の地面で、とげのない小さな、しかし特にメスカリンを初めとする向精神アルカロイドをたっぷり含むサボテンを探している。このドラッグは表向きには違法だが、メキシコ北部や米テキサス(Texas)州の先住民文化の中で数世紀にわたって役割を果たしてきた。この一帯の先住民ウィチョルなどの文化にとって、ペヨーテは意識超越や瞑想(めいそう)に不可欠だ。

 こうしたわけで1960年代以来、ペヨーテを試そうとこの地の果てまで旅して来る人々にとって、サンルイスポトシ(San Luis Potosi)州はちょっとした「約束の土地」になっており、旅行客は引きも切らない。

 ベカーさんの友人の1人、セサルさんは苗字は明らかにしなかったが、気に入っていることわざを教えてくれた。「人がペヨーテを見つけるのではない。ペヨーテが人を見つけるのだ」。一行は目的のサボテンを見つけると、真剣に「儀式」を開始した。

 宇宙が創造された場所だと先住民たちが信じるウィリクタの砂漠に入るには通常、許可が要る。それからペヨーテに捧げ物がされ、根ごと抜いてしまわないよう注意もする。ペヨーテに水がまかれ、小さなボタン状の先端部を食べる。「肉厚のフルーツみたいだけど、とても苦い」とベカーさん。先住民たちはペヨーテについて、シカの神の心臓の象徴であり、また神々と交信する手段だと考えている。多くの人は効果が持続している間、感覚の高まりや視覚・聴覚の共感覚や、吐き気などを経験する。

 南アフリカ人のクリス・ビドルさん(32)と恋人の女性は、自然とつながっている感覚がしたというが、そうした経験は「誰もに起こるものではない」という。また地元の人たちは、遠く世界中からやって来た人々が、ひとり砂漠で朽ち果てたり、現地の精神科施設に収容されて終わることを心配してもいる。(c)AFP/Carola SOLE