【8月4日 AFP】中国人民元、米ドル、ユーロ、それにティーバッグ――。北朝鮮では、貨幣は様々な姿で現れる。だが外国人旅行者は、北朝鮮の紙幣だけは使うどころか一度も目にすることさえないだろう。

 外貨不足の北朝鮮では、強い通貨であれば何でも歓迎される。観光客は数こそ少ないものの、重要な外貨獲得源だ。

 北朝鮮への旅行者は、どんな少額な支払いでも、あらゆる支払いを外貨で行わなければならない。そもそも平壌(Pyongyang)で買い物を出来る場所は限られているが、外国人旅行者は、外貨を受け取ってくれ、さらには釣り銭を出せる場所でしか買い物が出来ないため、さらに制限がある。

 外国人向けの大きなホテルやレストランではたいして問題にならない。だが、それ以外の場所では、事態は少々ややこしくなる。

 商品やサービスの価格は、ほぼウォンで表示されている。そのため、何かを購入する際はまず為替レートの換算から始めなければならない。

 米ドルとユーロを受け付けている店舗は多いが、返す店は少ない。そこで釣り銭は最も流通している外貨である中国元で返される。さらに為替換算が必要になる。釣り銭の額が少額であれば、ティーバッグ1、2個がおまけとして渡されることもある。

 ウォンの存在は、価格表だけでしか見ることができず、それ以外では完全に見えない存在となっている。  複数のリポートによれば、北朝鮮の人々にもウォンはあまり人気がないようだ。

 北朝鮮で流通する外貨の規模についてはいくつかの推計があるが、韓国のアナリストは最高で20億ドル(約2000億円)と見積もっている。北朝鮮の国民総所得(GNI)は300億ドル(約3兆円)未満──韓国のGNI、1兆1500億ドル(約110兆円)のわずか2.6%だ。

 北朝鮮の通貨に対する人々の信用は、2009年に民間市場対策として行われたデノミネーション(通貨呼称単位の変更)により、失墜した。

 外貨の人気──特に中国元の人気──は、北朝鮮当局にとって問題がある。当局が制御できない第2の経済が生まれる可能性があるためだ。

■訪問可能な場所に制限

 支払いの問題を脇に置いても、平壌周辺での買い物は一筋縄ではいかない。外国人旅行者は政府の監視員が同行しなければホテルを出ることもできない。

 毎日の訪問先はあらかじめ決められており、何か有意義な変更を加えようとすることは歓迎されない。

 説得を続けることで、タクシーに乗ってデパートに買い物に行くことが許可されることもあるが、平壌の平均的な住民の消費者としての暮らしぶりをのぞき見る機会が得られるとは限らない。

 国営の高麗航空(Air Koryo)のチケット販売所の隣に位置するラクウォン(Rak Won)デパートでは、買い物客よりもスタッフの数の方が明らかに多かった。

 商品は、中国の安価なキャンデーでいっぱいの長い棚から、外国の酒類や、ドイツのウィストフ(Wusthof)の包丁のような高級品までが、2フロアの販売スペースにぽつぽつと並んでいる。

 価格は一般的な北朝鮮の住民に手が出せるようなものではなかった。また、外国人ジャーナリストの一団の到着に販売員たちが無関心だったことを見ると、外国人観光客もあまり手を出さないとみられる。

■平壌住民の人気デパート

 さらに監視員に無理強いをしたところ、はるかに大きくて人気の「Kwang Bok」デパートへの駆け足の訪問が認められた。3フロアーをつらぬく吹き抜けには北朝鮮旗が飾られ、買い物客はエスカレーターで移動する。

 外国人ジャーナリストの一団の到着には、動揺した店長が飛び出して来た。監視員との激しい議論の末、一団はデパートに入ることを許可された。

 デパートは日曜日の買い物客で溢れていた。家族連れやカップルには、カモやカニ、魚料理をふるまう食堂が人気を博していた。

 朝鮮戦争を題材にした映画を放映するテレビの下に座った店員がビールやソジュを提供するカウンターには、買い物客の列ができていた。

 デパートの3階には子どもの遊び場が設置されていた。プラスチックの滑り台やジャングルジムが、武装した兵士や戦車、戦闘機の描かれた壁に囲まれ置かれていた。

 PR用の都市でもある平壌には北朝鮮のエリート層が暮らしており、その生活水準は平壌以外の住民よりもはるかに高い。

 国連(UN)の世界食糧計画(World Food ProgrammeWFP)によれば、北朝鮮の人口2400万人のうちおよそ3分の2が、今もなお、慢性的な食料不足状態にある。(c)AFP/Giles Hewitt