【7月26日 AFP】陸上・男子短距離のウサイン・ボルト(Usain Bolt、ジャマイカ)が、2009年に世界記録を更新した際、生物力学的な観点から見ても規格外の能力を発揮していたことが明らかになった。26日にメキシコの研究チームが発表した。

 2009年に開催された第12回世界陸上ベルリン大会(12th IAAF World Championships in Athletics Berlin)の男子100メートル決勝で、ボルトは9秒58の世界新記録を樹立した。

 メキシコの研究チームによると、ボルトがこのレースで世界記録を樹立するには、「並外れた」エネルギーを駆使し、空気抵抗を乗り越える必要があったとしている。

 研究チームがベルリンの標高、レース時の気象状況、そして身長195センチメートル、体重94キログラムというボルトの体格が生み出す空気抵抗を考慮して分析したところ、1.2という抗力係数が算出された。この数値は、ボルトの空気抵抗が平均的な人間のそれよりも少ないことを意味している。

 ボルトはレース開始からわずか0秒89で、エネルギーの放出レベルがピークに達した。そしてフィニッシュまでに81.58キロジュールのエネルギーを消費している。

 ヨーロピアン・ジャーナル・オブ・フィジックス(European Journal of Physics)に掲載された研究結果によると、そのうちの92.21%は空気抵抗を乗り越えるために活用された。実際に体を動かすためだけに使われたエネルギーは、わずか7.79%だったという。

 ボルトはこのレースを41歩で走り抜き、フィニッシュラインを切った時には時速43.92キロメートルを計測している。

■ベルリンでは空気に助けられたボルト

「あのレースでボルトが生み出したエネルギー、そして空気抵抗に消費されたエネルギーの量は本当に桁外れです」とメキシコ国立自治大学(National Autonomous University of Mexico)のホルヘ・エルナンデス(Jorge Hernandez)氏は語る。

「最近はたとえ100分の1秒でさえ世界記録の更新は難しいとされています。選手のスピードがわずかでも増すと、体にかかる圧力が大きくなるため、かなりのパワーが必要になるからです」

「これは地球の物理的な限界に制限されていることが大きな理由です。もし、ボルトがもっと大気の薄い惑星で走ったとしたら、より素晴らしい記録を残すことができるでしょう」

 また研究チームは、2008年の北京五輪でボルトがマークした前回の世界記録と、世界陸上ベルリン大会でのタイムを比較している。エルナンデス氏によると、ボルトはベルリンで空気に助けられていたとの見解を示している。

 ベルリン大会のレースでは、時速3.23キロメートルの追い風が吹いていた。もしこの追い風がなかったら、ボルトは9秒68でフィニッシュしていたと想定されており、前回の記録との差はわずか0秒01となっていた。

 今回の研究結果は、国際陸上競技連盟(International Association of Athletics FederationsIAAF)が、2009年ベルリン大会の男子100メートル決勝中にレーザー測定器を使って0秒1ごとに記録されたボルトのスピードデータに基づいている。(c)AFP