【7月23日 AFP】7月初旬に起きたエジプトのムハンマド・モルシ(Mohamed Morsi)前大統領の失脚をめぐり、アラブ世界で競合する衛星テレビ局のアルアラビーヤ(Al-Arabiya)とアルジャジーラ(Al-Jazeera)は、サウジアラビアとカタールという、それぞれの資金源の政治路線に即した報道合戦を繰り広げた。

 両局の違いが最初に顕著になったのは、2011年の民衆蜂起「アラブの春」。目まぐるしく展開する情勢について、それぞれがサウジアラビアとカタールの視点から報じた。

 アラブの春は「アラブ世界のメディアの二極化を招いた」とサウジアラビアのアナリスト、Abdullah al-Shamry氏は解説する。「両局とも(報道の)プロとしての客観的見解を伝えることよりも、それぞれの出資者の見解を報じることをより気に掛けるようになった」とし、「フランス24(France 24)」や「スカイニューズ・アラビア(Sky News Arabia)」といったアラビア語でも報じる他の放送局に比べて「信頼性を失いつつある」という。

 同氏はまた、アルジャジーラとアルアラビーヤに出演する評論家は、それぞれの立場を反映するよう慎重に選ばれているとした。

 天然ガス資源に恵まれたカタールが出資するアルジャジーラは1996年設立。それまで数十年間、国営メディアに限られていたアラブ世界のメディアにとっては革命的な存在となった。一方、アルアラビーヤは、サウジアラビアの王族と深いつながりのある同国の実業家、ワリード・イブラヒム(Waleed al-Ibrahim)氏が所有している。

 アラブの春の後、サウジアラビアとエジプトに誕生したモルシ政権およびモルシ氏の支持母体であるイスラム組織ムスリム同胞団(Muslim Brotherhood)が多数派を形成していたチュニジアとの関係は緊張状態にあった。その一方で、カタールはムスリム同胞団の権力掌握を強力に支持した。

 両局の違いは前月、モルシ前大統領を退陣に追い込んだ、軍による事実上のクーデターにつながった大規模なデモをめぐる報道で最も鮮明となった。

 アラビア語メディアに詳しい仏ソルボンヌ大学(Sorbonne University)のモハメド・エル・オイフィ(Mohammed El Oifi)氏は「アルジャジーラとアルアラビーヤはエジプト情勢について、正反対の報道した」と述べる。

 アルアラビーヤが、エジプトの首都カイロ(Cairo)のタハリール広場(Tahrir Square)での反モルシ派のデモを生中継する一方で、アルジャジーラは画面を二分割し、別の広場で起きていたモルシ支持派のデモも中継した。アルアラビーヤがエジプトの「第2の革命」を称賛したのに対し、アルジャジーラに招かれたゲストの大半はモルシ氏の解任を「正統性に対するクーデター」と呼んだ。

 クウェートの元情報相で学識者のサード・アジミ(Saad al-Ajmi)氏は「どちらの局も大々的な報道は行っていたが、使う言葉の選択に違いがあり、それぞれの政治的立場を反映していた」という。「デモはどちらも報じていたが、伝える角度には、支持する側のデモを大きく映したいという思惑が鮮明だった」

■それぞれを批判する視聴者の声

 視聴者はどちらのチャンネルにも批判的だ。マイクロブログのツイッター(Twitter)には、アルアラビーヤの報道を冷やかすハッシュタグが登場し、SNSのフェイスブック(Facebook)では6000人以上のグループが、「エジプト人の間に暴動を扇動しているアルジャジーラの協力者を、エジプトから追放しよう」と呼び掛けている。

 カイロの18歳の青年は「アルジャジーラはムスリム同胞団について誇張しているし、そればかりに集中してる。彼らの報道は偏っているよ」と話す。

 一方、アラブ首長国連邦に住むエジプト人アブデル・ファター・モハメドさんは、「アルジャジーラは少々ムスリム同胞団寄りだけど、それは、そうした視点からの報道をどこもしないからだ」と指摘した。それでも、アルジャジーラは「ライバル」とは違って「さまざまな出来事を起きているがままに中継し、あらゆる立場のゲストを招いている」と擁護する。そしてアルアラビーヤについては「最近見るのを止めた。全然、客観的じゃないからね」と語った。

 しかし、アジミ氏はこれらは健全な競争だという。「彼らの多様な報道は視聴者のためになる。一つの見解しか聞くことができないとすれば、アラブ世界の視聴者にとってそれこそ公正を欠くことだ」(c)AFP/Lynne AL-NAHHAS