【7月12日 AFP】米アップル(Apple)が出版社と共謀し、電子書籍の値段を不当に設定したと認定した米連邦地裁の10日の判決により、音楽や映画など全てのデジタル・コンテンツ市場の競争が活発になる可能性があると、アナリストらはみている。

 反トラスト法(独占禁止法)に詳しく、米連邦取引委員会(Federal Trade CommissionFTC)の政策指揮官を務めたこともある弁護士デービッド・バルト(David Balto)氏は「大きな勝利をつかんだのは消費者だ」と語る。「アップルのやり方は価格を明らかにつり上げた。もしもそれが許されれば、アップルはこの手法を用いて、さまざまな市場の価格を引き上げていただろう。今回の判決は、反トラスト法の断固とした施行の意義を見せつけた画期的なものだ」

 デニース・コート(Denise Cote)連邦地裁判事は、米ニューヨーク(New York)での3週間に及ぶ審理の末、電子書籍の価格競争を終わらせようとした出版社5社の集団努力を「促進・助長した」責任がアップルにあると判断した。なお、アップル側は上訴するとしている。

 米ミシガン大学(University of Michigan)の反トラスト法専門家、デービッド・クレーン(David Crane)氏は判決によって、デジタル・コンテンツの価格設定に対するアップルの影響力は大きく妨げられたという。「音楽にせよ映画にせよ、新聞や何にせよ、基本的にアップルは、価格設定の方法やリリース日の決定といったビジネスモデルの再構築に深く関わりたがっている」が、今回のような判例は「コンテンツ提供元との1対1の交渉以外では、アップルを非常に慎重にさせる」ものだとみる。

 一方、判決は電子書籍市場におけるインターネット小売大手アマゾン・ドットコム(Amazon.com)の独占状態をいっそう強化するかもしれないとみるアナリストもいる。アップルが持ち込んだ「取次店モデル」にアマゾンが移行しているという指摘もある。

 アップルが電子書籍市場に参入するまで、アマゾンはほとんどの書籍を9.99ドル(約990円)の廉価で販売する「卸売モデル」を採用していた。それは崩れたが、電子書籍が値上がりしてもアマゾンは「利益を得る」と、エンドポイント・テクノロジー・アソシエイツ(Endpoint Technology Associates)のアナリスト、ロジャー・ケイ(Roger Kay)氏は説明する。

 電子書籍市場におけるアマゾンのシェアは、数年前の90%からは減ったが、依然3分の2を占めるとされる。一方、アップルのシェアは約20%とされている。

 他方、電子書籍全体の売上は数年間にわたり急増した後、その勢いは落ち込んできている。米出版社協会(Association of American PublishersAAP)の調査によれば、電子書籍の2012年の売上成長率は41%で依然著しいが、倍増していた11年など近年の猛烈な勢いはない。

 デジタル市場での権利擁護などに取り組む団体「パブリック・ナレッジ(Public Knowledge)」のマイケル・ワインバーグ(Michael Weinberg)氏は、市場はいまだ電子書籍やその他のデジタル・コンテンツのモデルを取捨選択している途上にあると言う。また今回の判決をきっかけに、現在の電子書籍市場がコンテンツの再生を1つのデバイスに限定する、いわゆるデジタル著作権管理に制約されていることに対する認識が高まってほしいと期待し、「もし(アマゾンの電子書籍端末)キンドル(Kindle)上で全てのファイルを持っていて、それを別の端末にも移せるのであれば、市場の成長を促すことができるだろう」と述べた。(c)AFP/Rob Lever