【7月10日 AFP】スペイン北部ナバーラ(Navarra)自治州パンプロナ(Pamplona)の伝統の祭りサン・フェルミン(San Fermin)──祭りを目指して世界中から集まった命知らずの若者たちは、狂騒の中、石畳の道を走る闘牛6頭の前を地元の古参たちと共に駆け抜ける。

■体重500キロ、時速24キロで走る闘牛

 英国や豪州、遠くは米国などからも数十万人が訪れる9日間のサンフェルミン祭では、数多くのコンサートや昼夜ひっきりなしのパーティー、聖行列などが繰り広げられるが、何といっても目玉は毎日開催される牛追いだ。

 毎朝8時、体重500キロの牛6頭と共に数百人が走り始める。コースは町の「囲い場」から闘牛場まで、細く曲がりくねった848.6メートルの街路。追い込まれた闘牛場で牛たちは殺される。

 英国から来たという若い男性2人は、「すごいけど本当に怖かった」「今までで一番とんでもない旅行だ」と興奮しながら口々に語った。

 牛追いをする人の多くは伝統衣装の白いシャツとズボン、首には赤いスカーフを巻いている。牛追いの始まりから終わりまで、最高時速24キロで走る牛にできるだけ近づこうとする。

 起源を中世にさかのぼるサンフェルミンの祭は、米作家アーネスト・ヘミングウェイ(Ernest Hemingway)の小説「日はまた昇る(The Sun Also Rises)」で不朽のものとなり、外国からますます多くの若者たちを引き付けることになった。このことについて地元のベテランたちは、内心悔しい思いをしているようだ。

 隣のバスク(Basque)自治州の町エルナニ(Hernani)から来たフレン・マディナさん(58)は牛追いを始めてから今年で41年目になる。「サン・フェルミンには世界で最も重要な牛追いがあるから、多くの人が集まる。群衆はどんどん増えているが、もう隙間はほとんどないよ」と嘆く。マディナさんは2010年に一度牛追いから引退したが、今年、再び参加した。「夢中にさせられるんだ。牛追いをしないで、ただ見てるだけなんてできない」

■祭りの拡大と共に増す危険性

 ベテランたちは、周辺地域以外から参加する「新米の牛追い」たちが、この皆が酒に酔っている祭りに潜む危険について分かっていないと警告する。牛追いを始めて39年になるパンプロナ在住のホアキン・スバスティさん(52)は、「牛追いは角に突かれたり、骨折したり、振り落されたり、元々危ないものなんだ。僕らは友人同士で牛追いに参加していた。僕たちにとっての芸術の一つだった。けれど、ずいぶん変わった。もう、パンプロナだけのものではない。牛追いに情熱をかける皆のものだ」という。

 1911年に牛追いが始まって以来、記録では15人が亡くなっている。最近では4年前に27歳のスペイン人男性が、角で首と心臓、肺を突かれて死亡した。毎年200~300人が負傷し、数十人が入院を余儀なくされている。

 負傷で最も多いのは、牛に突かれることではなく、走っている間に転んだり、牛に倒されたり踏まれたりするものだ。危険を減らすために地元当局は、飲酒をした上での牛追いの危険性を繰り返し警告し、また酔っているようにみえる参加者をコースに入れないなどの対策をとっている。

「経験がないのに、やってみようという人たちがいる。けれど、酒を飲んでいる人間がたくさんいて、大きな問題になっている」とマディナさんはいう。

「いきなりここから始めるのではなくて、牛追いのやり方を学ぶところにまず行くべきだ」

(c)AFP/Sylvie GROULT