【7月9日 AFP】今月中旬に誕生予定のウィリアム英王子(Prince William)と妻のキャサリン妃(Catherine, Duchess of Cambridge)の第1子の先祖を系譜学者たちがたどったところ、数々の驚きが発覚している。

 英王室の新たなロイヤルベビーの系譜には、仏パリ(Paris)の街角の一介の女優から、ルーマニアの「ドラキュラ(Dracula)公」、さらにはイスラム教の預言者ムハンマド(Prophet Mohammed)につながるスペイン・セビリア(Seville)のスルタン(イスラム王侯)まで幅広い先祖が連なっているという。

■キャサリン妃の系譜でいっそう「民主化」

 英王位継承順位2位のウィリアム王子の家系は、欧州に広がるゴータ(Gotha)家とのつながりが色濃い。歴代の英国君主の他、ギリシャ、デンマーク、スウェーデン、ロシア、オーストリア、スペインの王家や、ドイツの数多くの公国の君主たちが見受けられる。英王室は元々ザクセン・コーブルク・ゴータ(Saxe-Coburg-Gotha)家と呼ばれていたが、ドイツとの戦争の只中だった1917年にウィンザー(Windsor)家に改称した経緯がある。

 一方、ロイヤルベビーの母となるキャサリン妃の旧名はケイト・ミドルトン(Kate Middleton)さんだが、先祖の多くは庶民だという。

 エリザベス女王(Queen Elizabeth II)の母の故エリザベス皇太后(HM Queen Elizabeth The Queen Mother)も、ウィリアム王子の母の故ダイアナ元皇太子妃(Princess Diana)も王族の生まれではなかったが、「ウィリアム王子がケイト・ミドルトンさんと結婚したことで、誕生する子どもの家系は真に『民主化』された」と、仏専門誌「フランス系譜学レビュー(La Revue Francaise de Genealogie)」で今月生まれるロイヤルベビーの系図を分析した著名な系譜学者ジャンルイ・ボカルノー(Jean-Louis Beaucarnot)氏はAFPに語った。

 未来の英国王または英女王は、自らの「臣民」の多くと親戚関係となる。キャサリン妃の父方の先祖は比較的裕福だった。しかし「母方の先祖は、大部分がイングランド北部出身の労働者階級」だと、ニューイングランド歴史系図協会(New England Historic Genealogical SocietyNEHGS)の会員で、2011年に発刊されたキャサリン妃の家系に関する本の共著者スコット・スチュワード(Scott Steward)氏はいう。

 キャサリン妃の家系には炭鉱労働者や洗濯婦、パン職人、ロンドンの街角の清掃作業員などがいる。ドイツの詩人・劇作家にして自然科学者だったゲーテ(Johann Wolfgang von Goethe)に英語を教えたアーサー・ラプトン(Arthur Lupton)もいる。さらに1881年にロンドンのホロウェイ(Holloway)刑務所に投獄されたエドワード・トーマス・グラスボロー(Edward Thomas Glassborough)の名もある。グラスボローは捕われた理由がいまだに謎のままだ。

■英王室祖先にはドラキュラ公から米仏大統領

 英王室側の系譜にもさらに驚きがある。ボカルノー氏によれば、1910~1936年に在位した英国王ジョージ5世の妻メアリー王妃(Queen Mary)の先祖は15世紀、ルーマニアのトランシルバニア(Transylvania)とワラキア(Walachia)を統治したワラキア公家にまっすぐたどり着く。この公家には、父の名にちなんだドラキュラ(Dracula)で知られ死後、串刺し公(Vlad the Impaler)とも呼ばれたヴラド3世(Voivode Vlad III)がおり、その残酷さから、アイルランド人作家ブラム・ストーカー(Bram Stoker)の有名な吸血鬼小説「ドラキュラ」のモデルとなった。

 英王室側の家系のもう一つの発見はフランス革命の時代、パリのパレ・ロワイヤル(Palais Royal)で女優をしていたイアサント・ガブリエル(Hyacinthe-Gabrielle)という女性だ。恋人で後に夫となったウェルズリー侯爵(Marquis of Wellesley)に連れられて英国へ渡った女性で、エリザベス皇太后の直接の祖先にあたる。

 もう一人、1639年に仏ポワトゥー(Poitou)地方に生まれたキリスト教プロテスタントのフランス人貴族の女性を通じて、新たなロイヤルベビーは故フランソワ・ミッテラン(Francois Mitterrand)元仏大統領とも遠戚となる。またこの女性の母親は米国の初代大統領ジョージ・ワシントン(George Washington)にもつながる。

■ダイアナ妃の家系にはチャーチル家

 またダイアナ妃の祖母方では、故ウィンストン・チャーチル(Winston Churchill)元英首相や、その祖父でフランスの有名な民謡の素材にもなっているマールバラ公(Lord Marlborough)の家系にたどり着く。

 その他の著名人では、米女優のエレン・デジェネレス(Ellen DeGeneres)さんや、映画監督でマドンナ(Madonna)の元夫のガイ・リッチー(Guy Ritchie)さんともつながる。

 しかし、最も驚きの発見は遠戚の1人に仏国王アンリ4世の王妃マリー・ド・メディシス(Marie de' Medici)がいることだ。マリー・ド・メディシスの祖先は1109年に死去したカスティーリャ(Castillia)王アルフォンソ6世(Alphonse VI)がおり、その4番目の妻サイーダ(Zaida)はスルタン家の娘で、ローマ・カトリックに改宗したといわれているが、ボカルノー氏によれば、その祖先にあたるセビリアのスルタンは、イスラム教の預言者ムハンマドの直系子孫にあたると考えられている。(c)AFP/Frederic Dumoulin