【7月11日 AFP】5月に行なわれた第66回カンヌ国際映画祭(Cannes Film Festival)で、映画『アメリ(Amelie)』の主演女優としても知られるオドレイ・トトゥ(Audrey Tautou)が「イーキン・イン(Yiqing Yin)」のドレスを着用した。これらの出来事によって、中国生まれのデザイナー、イーキン・インは一夜にして、世界中から注目される話題の人へ華麗なる変身を遂げた。

 ファッション・サイト「レッドカーペット・ファッション・アワード(Red Carpet Fashion Awards)」は、幾重にもプリーツが施されたミント色のオーガンザとシルクシフォンでできたドレスを「芸術作品」と評した。大学を出てからわずか数年のデザイナーであるイーキンにとって、この出来事はまさにそれまでの人生を変えてしまうほど決定的なものだった。

 「これまでのどのショーも、これほどメディアに取上げられたことはありません」。

 3日に13/14年オートクチュール・コレクションの発表を終えたインは、パリのアトリエでこう語った。「これでより知名度が上がり、オートクチュール、プレタポルテともに新たなバイヤーの関心を引くことができるでしょう」。

 実験的ともいえるイーキンの作品は、(カンヌのような)注目を浴びるイベントに選ばれやすいドレスとは言えない。もしオープニングセレモニーでトトゥが着用することが予想外のことだったとしても、ブランドにとっては歓迎すべきことだった。今回のショーでは、多くの重要な業界関係者がインビテーションを求め、中国のメディアからも関心を集めた。

 イーキンは1985年に北京(Beijng)に生まれ、4歳で中国を離れた。いろいろな国を転々とする中で、イーキン曰く、服は彼女に「一定の基準」を与えてくれたという。古美術商を営む一家で「美しく古いものに囲まれて」育った彼女は、のちにパリ国立高等美術学校(École des Beaux-Arts)で学んだ。2010年、新人デザイナーの登竜門とされる「イエール国際モードフェスティバル(Festival International Des Arts De La Mode De Hyeres)」で“Exile”と題した最初のコレクションを発表。作品は、フランス文化通信省にも展示された。

 今回、最新コレクションで、“海洋生物”をテーマに選んだ理由についてイーキンは、彼女に嫌悪感を抱かせる生物が「ピュアで美しいもの(服)」に変化するのを面白いと思ったからだと語る。“夢のよう”だと表されたその作品には、仏北部カレー(Calais)で作られるレースなどの装飾が多く施されていた。

 2012年1月から、「イーキン・イン」はオートクチュール組合(La Chambre syndicale de la haute couture)の招待メンバーとしてパリでショーを行なうようになった。作品を“オートクチュール”と表すことができるのは同組合のメンバーのみで、メンバーは手作業の量や作る服の数など厳しい基準を守る必要がある。中国や米国の客に向けて販売をはじめるにあたり、イーキンは作るドレスが万人向けでないことは理解していると明かした。「私の服を着るには、スリムである必要があります。露出を恐れる人も着られません」

 トトゥが着用したことで、イーキンは高まった名声の余韻に浸る間もなくスタッフを増員することになるだろう。「ブランドをはじめて2年半で、私たちは数十着ほどのドレスを売ってきました。(いま)私たちは決定的な瞬間にいます。需要に応えられるようにならなければ!」と語った。(c)AFP/Helen ROWE