【7月3日 AFP】イタリアの首都ローマ(Rome)の、あるうらぶれた地区の無料食堂では、有名レストランや高級惣菜店から寄付された美味しい料理を配給している。廃棄される食品を減らし、不況に見舞われているイタリアで困窮する人々に食事を提供するための新たな取り組みの一つだ。

「美味しいに決まってるよ。無料食堂のVIP版だね。コース料理で、デザートまである。トラットリアみたいだよ」。モルドバからやって来た建設労働者でホームレスのアレサンドロさんは、サン・ベネデット(San Benedetto)教区の食堂でシャーベットを食べ終えてから語った。

「パスト・ボーノ」(美味しい食事の意)と名付けられたこの食事の支援プロジェクトの事務局は、食べ残しや作ってから1日経った料理を捨ててしまう高級食料品店やレストランと連絡を取り、キリスト教カトリック系の慈善団体カリタス(Caritas)のような無料食堂を運営する団体に紹介している。食事の配給は定期的に行われるよう組織されており、ボルペッティ(Volpetti)のような高級飲食店から、近くのオスティエンセ(Ostiense)にあるカリタスの食堂まで毎日、残り物が運ばれている。オスティエンセはローマ中心部の南に位置し、現在は荒廃してしまった元工業地区だ。莫大な富を持つ富裕層と、失業やホームレスの急増による絶望感が隣り合わせに暮らすイタリアの首都をピザ、パスタ、肉料理、魚料理が行き交っている。

 今年初めの数か月間で、イタリア国民の支出のうち食費は3%減った。その一方で、問題なくまだ食べられる食品が年間600万トンも廃棄されている。

「パスト・ボーノ」と提携している店は、ティラミスの名店「ポンピ(Pompi)」を含め、レストラン、バー、パティセリー(菓子店)、デリカテッセン(惣菜店)など約30店。サン・ベネデット教区の主任司祭ファビオ・バルトーリ(Fabio Bartoli)神父は「この取り組みは非常に重要だ。店主たちの寛容な心と、最も貧しい人たちの需要をつなげている」と語る。この教区では1日35人に食事を提供している。

 誰もが自分のできるやり方で貢献できる。ローマ中心部にある流行のレストラン「ストラッビオーニ(Strabbioni)」では、近くのテルミニ(Termini)駅に寝泊まりしているホームレスたちのために、週3回、6食分の食事を作っている。19世紀に創設された由緒あるスポーツクラブに併設するレストラン「ティロ・ア・ボロ(Tiro a Volo)」では、日曜日の贅沢なビュッフェの残り物を毎週月曜、サン・ベラルミーノ(San Bellarmino)の無料食堂に寄付している。

 ボランティアらによると、もともと無料食堂の常連だった移民たちがイタリアを去る一方で、政府の緊縮政策によって打撃を受けた以前の中流層のイタリア国民が、「新たな貧困層」として食堂に来るようになっている。

 サン・ベネデットの無料食堂に来ていた58歳のドナトさんも、そうしたイタリアの新たな貧困層の1人だ。「前は宝石商をやっていたが、借金を抱え込んでしまった。全て失ったよ」という。「この2年間は車の中で寝ている。昼食はここへ来て、夜はスーパーへ行ってパンを盗んでいる」

 しかし慈善団体らは、「パスト・ボーノ」のような取り組みの限界を訴えている。寄付を願い出る側の前に、お役所的なややこしい手続きが立ちはだかっているからだ。

「パスト・ボーノ」の事務所でAFPのインタビューに応じたグレゴリオ・フォリアーノ(Gregorio Fogliano)代表は「官僚主義だ」と批判し、手続きを簡略化する新法の制定を求めている。「参加している飲食店はどれも一流店。彼らは何か良いことをしたいと思っていて、売れ残った食料も処分したいのだ」

 フォリアーノ代表は、ローマで年間11万食の配給を目指している。2007年にジェノバ(Genoa)でスタートした「パスト・ボーノ」は、フィレンツェ(Florence)でも始まっており、さらに近い将来、シチリア(Sicily)島のパレルモ(Palermo)でも計画されている。(c)AFP/Francesca Caruso