【6月24日 AFP】ノルウェー最北端のキルケネス(Kirkenes)は、欧州の港町の中で実質的にアジアから最も遠く離れた場所にあったが、突如として以前より大幅に近くなったようだ。理由は「地球温暖化」だ。

 氷の融解により、ロシア北方の北極海(Arctic Ocean)を通る北極海航路(Northern Sea Route)が開通したことで、国際貿易の構図が根底から変化している。ただしこれまでのところ、交通量の多い4車線の幹線道路というよりは、眠ったように静かな郡部の道に近い。

 革新的な重要性を秘めた変化の中で、横浜(Yokohama)港とドイツのハンブルク(Hamburg)港の間の航行時間が40%短縮され、燃料消費量も20%削減されている。

 砕氷船を運航しているロシアのロスアトムフロート(Rosatomflot)によると、北極海の海氷面積が記録史上最も小さい340万平方キロメートルだった2012年には、わずか4隻だった2010年に比べ、46隻の船舶がこの新航路を使用したという。

 交通量は従来の航路と比較するとまだ極めて少ない。船舶がパナマ運河(Panama Canal)を通過する回数は年間1万5000回で、スエズ運河(Suez Canal)は同1万9000回だ。だが、将来性はあるようだ。

 ノルウェー船主協会(Norwegian Shipowners' Association)によると、北極海航路で運ばれる貨物量は、2012年の126万トンから2020年には5000万トンへと、今後堅調に増加する見込みだという。

 冬の数か月間はほぼ暗闇に閉ざされる人口3400人のキルケネスは突如、この来るべきブームに向けた準備を必死になって進めている。

 ノルウェーの海運大手、チュディ・シッピング・グループ(Tschudi Shipping Group)は、サッカー場200面に相当する広さの物流拠点港を、暖流のメキシコ湾流(Gulf Stream)のおかげで1年中氷結しない近くのフィヨルドに開港する計画を立てている。

 この物流拠点港の立地は、極めて戦略的だ。太平洋(Pacific Ocean)からも地中海(Mediterranean Sea)からも航行時間は9日間で、北極にある石油や天然ガスの主要な埋蔵地と、スウェーデンとフィンランドの北部にある鉱山の両方に近い距離にある。

 昨年、欧州・アジア間で北極海を航行した船舶26隻は石油や天然ガスを輸送し、6隻は鉄鉱石や石炭を輸送した。

 また新航路によって、バレンツ海(Barents Sea)で抽出される液化天然ガス(LNG)の興味深い市場が開けている。特に、地元企業が当初想定していた取引先の北米が、自国のシェールガスを使用することを決定した後に背を向けたという背景があるためだ。

 その一方で、2011年の福島原発事故以降、アジアの天然ガス需要が増加しており、アジアでの価格が欧州に比べて著しく高くなっている。貿易の有益性に加えて、液化天然ガスを北方航路で輸送する船舶は、スエズ運河を経由する船舶に比べて輸送費を1隻当たり700万ドル(約6億8500万円)近く安くすることが可能という。(c)AFP/Pierre-Henry DESHAYES