【6月8日 AFP】大規模な反政府デモが続くトルコのイスタンブール(Istanbul)で酒屋を営むメンデレス・イルディリム(Menderes Yildirim)さんは、毎晩の暴動や催涙ガスなどを使った警察の対応よりもむしろ、店の冷蔵庫にある大量のビールのことを気に掛ける。

 抗議に参加している他の人々と同様、イルディリムさんはレジェプ・タイップ・エルドアン(Recep Tayyip Erdogan)政権が推し進める改革の1つである夜間のアルコール販売禁止に憤りを感じている。

 信仰心のあついイスラム教徒であるエルドアン首相は先週末、アルコールを飲む人々に「アルコール依存症患者」の烙印(らくいん)を押し、ますます抗議する者たちの怒りを買った。エルドアン首相は、ビールの代わりにトルコの伝統的なヨーグルトドリンク、「アイラン」を国民的飲み物にすべきだと主張する。

 最近のデモの中心地となっているタクシム広場(Taksim Square)を行き来する大勢の外国人観光客や地元民を相手に商売するイルディリムさんには、首相の提案は響かない。イルディリムさんは「お客に何を売ればいいのか。アイランか?」と嘆き、夜10時から翌朝6時までのアルコール販売禁止やアルコール飲料の広告規制をアブドラ・ギュル(Abdullah Gul)大統領が承認すれば、生活が破綻してしまうと話した。

■警察の対応から保守派イスラム政権への不満噴出

 アルコール類規制法は、デモの参加者がエルドアン首相を「独裁者」と呼ぶようになった政策の1つだ。国民の大半はイスラム教徒だが、憲法で厳格に世俗主義を貫くこの国に首相は保守的なイスラム改革を施したいのだと、反対派は批判する。前週、イスタンブール市内の再開発計画に反対する平和的な抗議行動に対し、警察が催涙ガスを使用したことから一転、エルドアン政権への不満は数日間に及ぶ全国規模のデモに発展した。

 イスタンブールでは以来、再開発の対象とされている公園に毎夜、学生たちがあふれ、ビールを手に踊ったり歌ったりしている。その多くがアルコール類規制法をやり玉に挙げている。ある若い男性は「この規制は厳しすぎる。だからみんな、つぶしたがっているんだ。これはアルコールだけの話じゃない。自由に関する問題だ」と語った。

 トルコの一部の人々にとって公の場で酒を飲むことは昔から社会生活の一部となっている。東洋と西洋の交差点に位置し異文化が入り混じるトルコでは、酒場は人々の社会的、政治的な傾向がうかがえる場でもある。

 抗議デモやソーシャルメディア上で爆発する国民の怒りをよそに、エルドアン首相はアルコール販売規制法を成立させると明言。「私は国民を愛している。国民にアルコール依存症になって欲しくない」と述べた。これに対し、大勢の国民がマイクロブログのツイッター(Twitter)や米SNSフェイスブック(Facebook)上で首相の発言を取り上げ、皮肉を込めて自分たちは既に「アルコール依存症患者」だとコメントした。

 経済協力開発機構(OECD)による最近の調査によると、トルコのアルコール消費量は比較的少ない。人口7500万人のうちアルコールを飲む人は350万人で、成人1人当たりの年間消費量は平均4リットルだという。また、2011年に実施された民間調査では、国民の約70%がアルコールを飲んだことがないと答えた。しかし多くのトルコ人、特にタクシム広場周辺に住む人々は、大勢の観光客に酒を販売して生計を立てている。

 苦々しい思いのアルコール飲料メーカー各社も、規制法が施行されれば禁止されることになる広告で、感傷的な「別れ」を告げている。トルコの代表的なビールブランド、「エフェス・ピルゼン(Efes Pilsen)」はおなじみの太めのボトルからラベルが消えた象徴的な全面広告を掲載した。(c)AFP/Ceren KUMOVA