【6月7日 AFP】記録的な大雪に打ちのめされてから3か月もたたないうちに、欧州中部は今度は洪水にのみこまれてしまった。原因として、気候システムに対する人間の干渉を指摘する声も科学界からは上がっている。

 先鋒に立つのは独ベルリン(Berlin)郊外にある「気候変動ポツダム研究所(Potsdam Institute for Climate Impact ResearchPIK)」で、地球上空のジェット気流が乱れたことによって、豪雨をもたらした低気圧が移動せず1か所に停滞してしまったと指摘している。

 PIKのシュテファン・ラムストルフ(Stefan Rahmstorf)教授はAFPの取材に、現在ロシアで起きている干ばつも、この気流の乱れに関連しているとの見方を明かした。

■北極圏の温暖化が低気圧停滞の一因

 ラムストルフ教授によれば通常、地球の中緯度では大気の流れは波形を形成し、南極・北極と熱帯の間を不規則に振れ動いている。この蛇行をもたらす主要な要因は、極寒の北極圏と赤道に近い温暖な地域との大きな温度差だ。大気は温度差によって北へ、南へと、ポンプのように送り出される。

 問題は、北極圏の温暖化が着実に進み、この温度差が小さくなっている点だ。理論上では結果として気流の動きが弱まり、低気圧や高気圧が停滞し、同じ天候がいつまでも続くことになる。

「このジェット気流の共鳴は局地的なものではなく、北半球全体に広がっている」とラムストルフ教授は説明する。「共鳴」が起きているとき、北半球には気圧の「山」と「谷」が6つずつ存在し、そのため一部地域で季節外れの暑さや極端な干ばつが起きるようになった一方、季節外れの寒さや大雨に見舞われる地域も出ているのだという。

■氾濫原の消失で洪水リスク増

 一方、欧州の水文学者らの調査では、人口10万人以上の欧州の都市の約5分の1が、河川の氾濫で洪水被害に遭いやすいとの結果が出ている。この洪水リスクについては、土地の利用方法に関する問題点も指摘されている。

 道路や区画が舗装されていると水はけが良いため、降った雨がすぐに河川に流れ込む。農地が既に水浸しの場合は、河川の水位が急激に増すことになる。中欧で3月の降雪の後に起きた事態がこれにあたる。

 環境団体「世界自然保護基金(World Wildlife Fund for NatureWWF)」は、かつて洪水に対して自然の緩衝となっていた平原が、都市化と農地拡大によって数十年にわたり浸食されてきた点を指摘し、氾濫原(洪水時に河川が氾濫することを想定した低湿地)の回復を呼び掛けている。

 WWFの東欧担当責任者、%%Orieta Hulea氏は「氾濫原には、スポンジのように大量の水を吸収してため込み、少しずつ、安全に河川や地下水へと排出していく機能がある」と説明。「ドナウ川下流域や欧州の大半の地域では、20世紀の間に氾濫原を主要河川の川床から切り離してしまったり、乾燥化して農地にしてしまった。そうすると洪水調節力が失われ、洪水が発生する危険性が高まる」と警告している。(c)AFP/Richard INGHAM