【6月6日 AFP】米海軍特殊部隊「シールズ(SEALs)」で勲章を授与される活躍をした後、ホルモン治療を受けて女性としての人生を送るようになった元男性隊員が1日、回顧録「Warrior Princess(仮訳:戦士のお姫様)」を電子書籍で出版し、トランスジェンダーとしての半生を明かした。トランスジェンダーであることを公表するのを恐れる人々に同書を捧げている。

 米軍では兵士の同性愛公言に対する禁止が解除されて2年近くが経つが、トランスジェンダーの男女が兵役に就くことは依然として禁じられたままだ。

 クリスティン・ベック(Kristin Beck)さんは、海軍特殊部隊の精鋭部隊「チーム6」に所属していた頃、内なる悩み抱えていたと回顧録に記している。「チーム6」は2011年に国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)指導者のウサマ・ビンラディン(Osama bin Laden)容疑者殺害作戦を実行した部隊だが、ベックさんは作戦の数か月前に退役している。

「A US Navy SEAL's Journey to Coming out Transgender(米海軍特殊部隊隊員のトランスジェンダー公言に向けた旅)」との副題がつけられた回顧録は、ひげをたくわえ黒いサングラスに迷彩服姿という、シールズ隊員の典型のようなベックさんの写真が表紙に使われている。

 報道によれば、出版にあたってかつての仲間のシールズ隊員たちから激励や支援のメッセージが届き、ベックさんを驚かせたという。ある隊員からは、こんなコメントが届いたという。「兄弟、俺は君の味方だ。シールズの任務はきついが、こいつはもっときつそうだ」

 シールズ元隊員の回顧録といえば戦場での華やかな活躍を仮名で記したものが多い。しかし、ベックさんは実名で、20年に及ぶ軍生活を語っている。13回にわたって世界各地に配置される中で、身体の性別と性自認との食い違いに葛藤し、女性として生まれてくるべきだったのだと次第に認めるようになったという。

 ベックさんはビジネス向け交流サイト(SNS)「リンクトイン(LinkedIn)」に登録した名前も、元の男性名クリス(Chris)からクリスティンに変え、「わたしは今、偽りの仮面を全て捨て、女性としての本当の自分を全世界に明かします」と投稿した。

 回顧録を共著した米ジョージタウン大学(Georgetown University)医学部のアン・スペッカード(Anne Speckhard)非常勤准教授(精神医学)は、本の中で次のように述べている。「この本の随所で、クリスは自分の絶望と、国に貢献しテロと闘って名誉の死を遂げ、市民の安全を守ると同時に性自認と体の不一致からくる心の苦痛とそれ以上闘わなくてすむようになりたいという欲求について書いている」

 2011年に退役したベックさんは、そこで初めて女性として生活できるようになった。本の中でベックさんは語っている。「私は、魂に性別があるとは信じていません。ですが、私が進む新しい道は、私の魂を完全で幸せなものにしてくれます」

「私の旅が、人間の経験に幾らかでも光を当て、そして何よりも性別には男女の2択しかないという『社会的・宗教的な教義』を治療する助けになることを願います」 (c)AFP/Dan De Luce