タイプライターへの愛着が歴史を「書き換える」か?米国
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【5月31日 AFP】エルマンノ・マルゾラティ(Ermanno Marzorati)さん(68)は今、かつてないほど忙しい。米俳優トム・ハンクス(Tom Hanks)さんの依頼を受け、アンダーウッド(Underwood)社の1930年製タイプライターを修理しているのだ。そしてその後ろにも、マルゾラティさんに世話をしてもらおうと多くの機械が待っている。
インターネット熱が高まる一方の現代の世界にありながら、マルゾラティさんはビバリーヒルズ(Beverly Hills)にある静かなアトリエで、新たなトレンド──ゆっくりと文章を書く技術への回帰──を感じ取っている。
1945年にイタリアで生まれたマルゾラティさんは69年に米ロサンゼルス(Los Angeles)に移り住み、2003年からタイプライターの修理を請け負ってきた。
修理を手掛けた中には、イアン・フレミング(Ian Fleming)やテネシー・ウィリアムズ(Tennessee Williams)、ジャック・ロンドン(Jack London)、レイ・ブラッドベリ(Ray Bradbury)、アーネスト・ヘミングウェイ(Ernest Hemingway)、オーソン・ウェルズ(Orson Welles)といった作家たちのタイプライターの他、ジュリー・アンドリュース(Julie Andrews)、グレタ・ガルボ(Greta Garbo)、ジョン・レノン(John Lennon)といった著名人が所有したタイプライターもある。
自慢できる仕事として誇らしげに見せる写真の中には、オレンジ色をしたアンダーウッド社の1926年製タイプライターがあった。オーソン・ウェルズが「市民ケーン(Citizen Kane)」を書き上げたタイプライターだが、マルゾラティさんの手元に届けられたときには、完全に壊れていたという。
■「世界に一つしかない」タイプライターへの愛着
AFPの取材に対し、マルゾラティさんは「私にとってはタイプライターの方が、コンピューターよりもいい。私が古風だからではなく、(タイプライターの方が)落ち着かせてくれるから。修正ができないから、言葉をより慎重に選ばなくてはならない。キーを打つまでに長い時間がかかる」と語った。
一方、収集家のスティーブ・ソボロフ(Steve Soboroff)氏は、コンピューターのキーボードとは異なり、タイプライターは所有者との間に密接な関係を築くものだと話す。「作家や著名人が人生のうちのかなりの時間を、このタイプライターの前で過ごしたんだと考えるのがとても楽しい。ものすごく私的なものなんだ。それぞれ1台ずつしかなくて、何百台もあるものとは違う。どれも1台だけなんだ」
マルゾラティさんのアトリエには、古い印刷機やタイプライター、機械式計算機などがあふれている。これから修理する予定のものは約60台。数年前に比べ大幅に増えており、「これから半年は予定がいっぱいだ」という。
タイプライターの修理を依頼してくる人たちは「収集家は例外」で、大半は自分で使うためだという。「みんな正直なところ、iPhone(アイフォーン)だの、いろいろな電子機器に本当に疲れてきていると思う。基本に立ち返りたいんだ」とマルゾラティさんはいう。
だがそれにしても、なぜ21世紀に暮らす人々が、重くて使いづらい機械でタイプを打ちたいと思うのだろうか?──カットもコピーもペーストも削除もできないのに。
マルゾラティさんは、コンピューターの利点は過大評価されているという。「コンピュータで書くことは集中できない。メールも来るし、言葉を打ち込んでは、削除したり、書き換えたりして、進まない」という。
■効率性とは別の魅力
写真家兼ドキュメンタリー映画監督のクリストファー・ロケット(Christopher Lockett)氏もマルゾラティさんの意見にうなずき、タイプライターは自転車に似ているという。「物事を効率的に片付けるのとは、まったく別の方法だ。自転車を乗るのを楽しむのと一緒で、みんな、タイプライターが『非実用的』なところが好きなんだ」
ロケットさんが制作した映画「The Typewriter in the 21st Century」(21世紀のタイプライター)は今、ロサンゼルスの独立系映画館で上映されている。「20世紀の偉大な小説の数々の誕生を、一端でも担ったタイプライターが姿を消すのだとしたら、それにふさわしい見送り方をしなければと思ったんだ」。しかし映画の制作に取り掛かってみて、タイプライターは消えるばかりではなく、修理の需要が急増していることを知り驚いたという。
ただし現代のテクノロジーを捨て、過去へ戻りたいという願望だと誤解すべきではないとロケット氏は述べる。「映画に登場する人は誰もこれ(タイプライター)だけが仕事をする唯一の手段だとは言っていない。みんなが捨て去っているものを応援しているんだ」(c)AFP/Leila Macor
インターネット熱が高まる一方の現代の世界にありながら、マルゾラティさんはビバリーヒルズ(Beverly Hills)にある静かなアトリエで、新たなトレンド──ゆっくりと文章を書く技術への回帰──を感じ取っている。
1945年にイタリアで生まれたマルゾラティさんは69年に米ロサンゼルス(Los Angeles)に移り住み、2003年からタイプライターの修理を請け負ってきた。
修理を手掛けた中には、イアン・フレミング(Ian Fleming)やテネシー・ウィリアムズ(Tennessee Williams)、ジャック・ロンドン(Jack London)、レイ・ブラッドベリ(Ray Bradbury)、アーネスト・ヘミングウェイ(Ernest Hemingway)、オーソン・ウェルズ(Orson Welles)といった作家たちのタイプライターの他、ジュリー・アンドリュース(Julie Andrews)、グレタ・ガルボ(Greta Garbo)、ジョン・レノン(John Lennon)といった著名人が所有したタイプライターもある。
自慢できる仕事として誇らしげに見せる写真の中には、オレンジ色をしたアンダーウッド社の1926年製タイプライターがあった。オーソン・ウェルズが「市民ケーン(Citizen Kane)」を書き上げたタイプライターだが、マルゾラティさんの手元に届けられたときには、完全に壊れていたという。
■「世界に一つしかない」タイプライターへの愛着
AFPの取材に対し、マルゾラティさんは「私にとってはタイプライターの方が、コンピューターよりもいい。私が古風だからではなく、(タイプライターの方が)落ち着かせてくれるから。修正ができないから、言葉をより慎重に選ばなくてはならない。キーを打つまでに長い時間がかかる」と語った。
一方、収集家のスティーブ・ソボロフ(Steve Soboroff)氏は、コンピューターのキーボードとは異なり、タイプライターは所有者との間に密接な関係を築くものだと話す。「作家や著名人が人生のうちのかなりの時間を、このタイプライターの前で過ごしたんだと考えるのがとても楽しい。ものすごく私的なものなんだ。それぞれ1台ずつしかなくて、何百台もあるものとは違う。どれも1台だけなんだ」
マルゾラティさんのアトリエには、古い印刷機やタイプライター、機械式計算機などがあふれている。これから修理する予定のものは約60台。数年前に比べ大幅に増えており、「これから半年は予定がいっぱいだ」という。
タイプライターの修理を依頼してくる人たちは「収集家は例外」で、大半は自分で使うためだという。「みんな正直なところ、iPhone(アイフォーン)だの、いろいろな電子機器に本当に疲れてきていると思う。基本に立ち返りたいんだ」とマルゾラティさんはいう。
だがそれにしても、なぜ21世紀に暮らす人々が、重くて使いづらい機械でタイプを打ちたいと思うのだろうか?──カットもコピーもペーストも削除もできないのに。
マルゾラティさんは、コンピューターの利点は過大評価されているという。「コンピュータで書くことは集中できない。メールも来るし、言葉を打ち込んでは、削除したり、書き換えたりして、進まない」という。
■効率性とは別の魅力
写真家兼ドキュメンタリー映画監督のクリストファー・ロケット(Christopher Lockett)氏もマルゾラティさんの意見にうなずき、タイプライターは自転車に似ているという。「物事を効率的に片付けるのとは、まったく別の方法だ。自転車を乗るのを楽しむのと一緒で、みんな、タイプライターが『非実用的』なところが好きなんだ」
ロケットさんが制作した映画「The Typewriter in the 21st Century」(21世紀のタイプライター)は今、ロサンゼルスの独立系映画館で上映されている。「20世紀の偉大な小説の数々の誕生を、一端でも担ったタイプライターが姿を消すのだとしたら、それにふさわしい見送り方をしなければと思ったんだ」。しかし映画の制作に取り掛かってみて、タイプライターは消えるばかりではなく、修理の需要が急増していることを知り驚いたという。
ただし現代のテクノロジーを捨て、過去へ戻りたいという願望だと誤解すべきではないとロケット氏は述べる。「映画に登場する人は誰もこれ(タイプライター)だけが仕事をする唯一の手段だとは言っていない。みんなが捨て去っているものを応援しているんだ」(c)AFP/Leila Macor