【5月27日 AFP】60年前の5月29日、前人未到だった世界最高峰エベレスト(Everest、中国名・チョモランマ、8848メートル)の頂に2人の男性が初めて立った──。

 それは人間の精神の強靭さと忍耐力による偉業だった。ニュージーランドの登山家、エドモンド・ヒラリー(Edmund Hillary)卿とシェルパ族の山岳ガイド(シェルパ)のテンジン・ノルゲイ(Tenzing Norgay)氏による初登頂以来、これまで多くの人々が、それぞれの理由で、エベレストに足跡を残してきた。

 過去に登頂を達成したのは延べ3000人ほど。ヒマラヤ登山に絶好の5月を迎えるなか、今年はすでに約500人が登頂を成功させた。先日は日本の登山家・冒険家の三浦雄一郎(Yuichiro Miura)氏が、80歳で世界最高齢での登頂を成功させた。パキスタンやサウジアラビア女性初の登頂や、下肢切断者の女性として初の登頂もあった。1シーズンに2回登頂した女性も初めて登場した。

■初登頂は命名から101年後

 エベレストという名が冠されたのは1852年。英植民地時代のインドで行われていた大三角測量(Great Trigonometrical Survey)で、それまでまったく注目を浴びていなかった山頂が世界最高峰と認定されたときだ。

 ヒラリー卿とノルゲイ氏が人類初となる登頂を成功させたのは、それから101年後。2人を登山界の伝説にしたこの遠征は2か月以上に及び、300人を超えるスタッフが8トン近い機材を運搬した。

 登頂直前には、現在「ヒラリーステップ(Hillary Step)」と呼ばれる岩場に行く手を阻まれるも、2人はそれを克服。頂では握手をしようと手を伸ばしたヒラリー卿に、ノルゲイ氏が抱き付いて応えたという。

 ノルゲイ氏の孫で、自らカトマンズ(Kathmandu)を拠点とする登山家のタシ・テンジン(Tashi Tenzing)氏(49)は、エベレストが生み出す観光はネパールにとって大切だが、ヒマラヤの価値を理解し、未来のために保護することも重要だと語る。

 「60周年は、この山について振り返り、私たちがここで経験したことから学ぶ機会でもあると思う」

 ヒラリー卿の息子のピーターさんと、ノルゲイ氏の息子のジャムリングさんは、英王立地理学協会(Royal Geographical Society)が主催する「ダイヤモンド・ジュビリー(Diamond Jubilee、60周年祝典)」にエリザベス女王(Queen Elizabeth II)と共に出席する。現地ネパールでも、ベースキャンプの清掃イベントから高地マラソン、登山記録保持者を招いた宮殿パーティーまで記念イベントが目白押しだ。

■飽和状態にあるエベレスト

 しかし一方で、4月に欧州からの3人のプロ登山家が、登山中にシェルパらと乱闘になっていたという衝撃的なニュースも伝えられた。

 この乱闘事件では、この山を有名にしたアドベンチャー産業や、外貨収入と自国のアピールをエベレストに頼るようになったネパール政府など、エベレストを取り囲む現状が白日の下にさらされた。

 山頂は混雑を増すばかりで、昨年撮影された写真には、西壁のローツェ・フェース(Lhotse Face)を通ってエベレストへ向かう人々が蟻のように列を作っていた。写真はエベレストの現状を象徴する1枚として有名になり、後に科学誌ナショナル・ジオグラフィック(National Geographic)は、山が「飽和状態」にあるとした。(c)AFP/Kyle Knight