【5月13日 AFP】南欧イベリア半島固有の黒豚「イベリコ豚」から作られる最高級の塩漬けハム「ハモン・イベリコ」は、スペイン料理界のスター的存在だ。しかし、不況の影響でスペイン国内の売り上げが落ち、生産者たちは海外進出に目を向けている。

 海外市場を開拓するため生産者たちが求めているのは、最高級のハモン・イベリコと、白豚から作られるもっと低品質で値段も安いハムとを区別するための表示ルールの厳格化だ。

■表示基準の厳格化が急務

 スペイン有数のハム製造元ベヘール(Beher)社の品質管理責任者ラモン・エステべス(Ramon Estevez)氏は「2つのハムはまるで似ていない」と言い切る。「イベリコ豚は、オリーブオイルにも含まれるオレイン酸を生成する。そんな動物は世界でも類を見ない」。このオレイン酸がイベリコ豚製品特有の旨みのもととなる。

 また、ハモン・イベリコに使われる黒豚には11月~3月、ドングリだけを食べさせる。このドングリの油脂が肉に独特の甘い香りをもたせる。

 イベリコ豚の塩漬けハムは1キロ当たり100ユーロ(約1万3000円)以上で取り引きされ、7年ものの熟成ハムともなれば脚1本丸ごとで4000ユーロ(約53万円)にもなる。だが景気の低迷で、スペイン国内のイベリコ豚の飼育数は3年前の400万匹から250万匹へと激減した。

「純粋にドングリだけで育てたイベリコ豚のハムは、極上のキャビアやフォワグラと肩を並べる世界最高の素材だ」と語るのは、スペイン産高級製品の品質保証を行っている非営利財団エリテ・グルメ(Elite Gourmet)のアレハンドラ・アンソン(Alejandra Anson)理事だ。「(しかし)この非常に特別な産物を売り込む方法を、スペインは知らない」

■8段階の格付けは「障害」?当局と生産者に温度差

 イベリコ豚の塩漬けハムの原産地呼称制度には現在、8段階の格付けがある。最高位の格付けは、最後の数か月にドングリだけを食べて45キロ以上に育ったイベリコ豚で作ったハムにだけ与えられる。

 ところがスペイン農業・食料・環境省は、この格付けの複雑さと分かりにくさが消費者を混乱させ、一部の生産者による不正の温床になるとして、3段階に減らす計画を立てている。「8段階もの格付けでは、世界進出など考えられない」と同省担当者は言う。

 ベヘール社と同じカスティーリャ・イ・レオン(Castilla y Leon)州サラマンカ(Salamanca)県のギフエロ(Guijuelo)で、乾燥中の10万本のハムが吊り下がる倉庫を案内してくれたアルトゥーロ・サンチェス(Arturo Sanchez)氏も、1917年創業の家族経営の銘柄を守るため輸出に期待を寄せている1人だ。「この(経済)危機によって海外進出を促された。2~3年前には輸出は売り上げの1~2%に過ぎなかったが、今では10~15%を占めている」

 しかしサンチェスさんは、原産地呼称の格付けを減らすという政府の計画では、最高品質のハモン・イベリコを守れないのではないかと不安を感じている。「自分たちの(製品の)品質を格付ける戦い」は家業だとサンチェスさんは考えているのだ。

 ベヘール社のエステべス氏も、来年ハムになるまでにもう数キロほど太らせなければならない豚の世話をしながら、「イベリコ豚の繁殖と飼育に関する全ての事柄は、厳格に規制すべきだ」と指摘。政府の格付け緩和に疑問を呈した。(c)AFP/Elodie Cuzin