【5月9日 AFP】何の野菜だか分からない角切りとご飯を混ぜ合わせた味気ない食事を皿の上でつつきながら、これから5日間、昼食はこのメニューだなとキャシー・トレベリアンさんは考えていた。世界中の何百万人もの人々にとっては普通の食事かもしれない。だが、58歳のロンドン市民には慣れないメニューだ。

■週5日間を貧困ライン以下で過ごす

 トレベリアンさんは1日の飲食代を1ポンド(約155円)にしている。世界の貧困ライン以下で5日間暮そうという試み「リブ・ビロー・ザ・ライン(Live Below the Line)」に参加する先進国2万人のうちの1人だ。目的は貧困撲滅を目指す慈善事業の資金作りと、極貧状態で暮らす世界の10億人の窮状に光を当てることだ。

 ツアーガイドで女優もしている58歳のトレべリアンさんは、マラリア撲滅に取り組む「マラリア・ノーモア(Malaria No More)」から参加を打診された。このNPOのために500ポンド(約7万7000円)ほどの資金を作りたいと思っている。

 月曜日にいよいよ挑戦を開始する前、トレべリアンさんは最も安く買い物をあげるために、インターネットで各スーパーのブランド食品の値段を比べ、念入りに献立表を考えた。朝はトーストに卵にバナナ、昼は白米と冷凍野菜でピラフ。夜はまたピラフか、スパゲティでソースはどぎついオレンジ色の「カレーソース」。紅茶のティーバッグも買ったが、節約のためにミルクは入れずストレートで飲んでいる。

「いまも結構貧乏なつもりだったけど、これは全然次元が違う。(実際には自分は)26ペンス(約40円)のカレーソースを買う必要はないのだから」。10億人の人々が糧としている食事はまったく別物で、自分の献立のほうがずっとましなことは分かっている。それでも「5ポンド(約770円)があれば、2人の子供の命を救える大きさの蚊帳が買える。それだけを考えてます」と自分を奮い立たせなければいけない。

■「貧困見物」との批判も

 この運動は09年にオーストラリアで始まり英語圏に広まった。ハリウッド俳優のヒュー・ジャックマン(Hugh Jackman)さんやベン・アフレック(Ben Affleck)さんのサポートを得て、今年は500万ドル(約5億円)の資金集めを目指している。

 しかしこうしたコンセプトは、5日間が終わればスターバックス(Starbucks)の2.75ポンドのコーヒーや有機食品にいつでも舞い戻れると分かっている裕福な人々による「貧困見物」だとの批判を常に招く。

 運動を呼び掛けている「グローバル貧困プロジェクト(Global Poverty Project)」のヒュー・エバンス(Hugh Evans)代表は「極貧の中で生きるとはどういうことなのか、本当に理解できるというわけではない。偽善ぶるつもりはない。ただ、底辺の10億人にとって暮らしとはどんなものなのか、少しだけでも知ることをみんなに促したい。1週間の終わりには毎日食べている食事がいかに単調か分かる。基礎カロリーが不足していて空腹も感じる。そういう感覚を味わうのは初めてだ」と語る。

 プロジェクトは世界の貧困に対する関心を高めるつもりで計画されたが、いっそう身近な国内で生活に苦しむ人たちにも光が当たる。「みんなが何を食べているのか考えさせられる。スーパーへ行ってみれば、19ペンス(約30円)のスパゲティを買っているのは私だけではない」とトレべリアンさんは言う。

 ロンドンの東、サウスエンド(Southend)出身のジャック・モンローさんは、25歳のシングルマザー。3歳になる息子ジョニー君の面倒をみるために昨年仕事を辞めなければならず、その後、どん底に叩き落された。テレビや衣類、本を売って家賃を払い、エアコンは消し、ジョニー君と2人、1日1ポンドでしのがなければならない日常が当たり前となった。

 最近暮らしは楽になった。ぎりぎりの予算での食事について書いたブログが本の出版につながり、地元の新聞のライターという仕事が舞い込んだからだ。けれど今もこのプロジェクトに加わって、国際NGOオックスファム(Oxfam)のために資金作りをしている。

 容易に批判できる取り組みであることは、モンローさんは認める。「多くの人たちは快適な家の中の暖かい部屋でやっていて、5日間だけ我慢すればいいって分かっている。けれど、慈善事業のためにお金を作っている人たちを、私は決して非難しない。実際、みんながこのことについて話したり考えたりしていることが、この取り組みのポイント。つまり、関心を高めるということです」

(c)AFP/Alice RITCHIE