【5月9日 AFP】「パンクロッカーは、アナーキーを求めていた。そんな彼らは最後に565ドル(約5万6000円)のTシャツを買うだろう」。米ニューヨークのメトロポリタン美術館(Metropolitan Museum of Art)で9日から開催されている企画展「PUNK: Chaos to Couture」をまとめると、ざっとこのような内容だ。

■パンクとクチュールに通じる創作の精神

 大盛況のなか迎えた6日の内覧会でスタートを切った同展は、音楽のジャンルのひとつであり、薬物乱用や反体制の叫びで知られるパンクときらびやかなハイファッションという、思いもよらない融合の軌跡に迫るというもの。格調高いメトロポリタン美術館のエレガントなホールに収められたコレクションは、まるでタイムカプセルのように、自滅的または意図的に破壊された音楽ジャンルを表現している。

 巨大スクリーンにはシド・ヴィシャス(Sid Vicious)をはじめとする多くのパンクロッカーのビデオクリップが流れ、パンク界の教祖の音楽や金言で満たされた空間には、1975年頃の有名なマンハッタンのナイトクラブ「CBCB」のバスルームも実物大で再現されている。ラモーンズ(The Ramones)が大音量で響き、壁には「DEAD BOYS RULE」のグラフィックが描かれたそのバスルームの床には、禁煙となった今日のニューヨークのクラブでは決して見られない煙草の吸殻が散らばっている。本物の香りが漂うが、もちろん、そこに“彼ら”はいない。パンクロッカーたちは、たとえ入館を許されたとしても、メトロポリタン美術館にはなじまないだろう。

 タイトルの“Chaos to couture”が意味するのは、骨太で革新的なパンクではない。ある虚無的なサブカルチャーがいかに終わりを迎え、キャットウォークファッションショーとして復活を遂げたかという視点でパンクを解き明かす。また同展では、「Tシャツを裂いてトイレのチェーンをジュエリーにする」ような、低コストで即興的なファッションを好むパンクが、現代のデザイナーたちに通じていたことを主張する。同展の注釈には「運命のいたずらか、パンクのDIY精神は“no future(未来のない)”な未来になってしまった」「パンクの精神はクチュールのオーダーメイドの精神とは相容れないと考えられがちだが、どちらも創造性とオリジナリティという同じ衝動に定義される」と書かれている。

■意味不明かつ淫らな衝撃

 会場には、パンクにインスパイアされたハイエンドなファッションをまとったマネキンが次々と並び、中には、巨大な安全ピンがついた「ヴェルサーチ(VERSACE)」1994年春夏コレクションのイブニングドレス、チェーンで覆われた「バレンシアガ(BALENCIAGA)」2004年秋冬コレクションのミニドレス、ピンクのシルクシフォンにゴールドのジップが付いた「ジバンシィ(Givenchy)」2011年秋冬コレクションのドレスなども展示されている。その光景は、前に耳に入ってくるBGMとはかけ離れているように思われる。会場には、「人々ができるだけ意味不明かつ淫らになるようショックを与える」ことを考えて作られたセックス・ピストルズ(Sex Pistols)の音楽が流れているのだ。

 しかし、同展では、商業化とファッションが決してパンクから離れた存在ではないことを示している。伝説的な仕掛人の故マルコム・マクラーレン(Malcolm McLaren)とパートナーのヴィヴィアン・ウエストウッド(Vivienne Westwood)が、英ロンドンのキングスロードで営んでいたブティック「SEX」から、実質的なUKパンクは始まったと言われている。

 全部で6つの展示室を抜けると、この企画展は“ギフトショップ”で終わりを迎える。現代のパンクロッカーはそこで、グラフィティが施された565ドルの「ジバンシィ」のTシャツや背面に“climate revolution”とプリントされた100ドル(約9900円)の「ヴィヴィアン・ウエストウッド」のTシャツなどを手に入れることができる。安全ピンのアクセサリーも、チェーンつきの巨大安全ピンが165ドル(約1万6300円)で購入可能。パールつきの安全ピンも775ドル(約7万6500円)出せば手に入る。(c)AFP/Sebastian Smith