【5月1日 AFP】アイスランドにある国連教育科学文化機関(ユネスコ、UNESCO)の世界遺産、シンクヴェトリル(Thingvellir)国立公園には930年に開催されたという世界最古の「議会」発祥の地がある。

 しかし、この地へ向かう道路にある木の橋は昨年できたばかり。増える一方の観光客の往来に耐え切れず、数百メートルにわたって舗装道路に入った亀裂を覆っているのだ。地面には穴が開き、道路の下は砂の層でいつ崩れてもおかしくなかったことが明らかになった。この道路は、大成功を収めているアイスランドの観光産業が直面する課題を象徴している。

 北大西洋上に浮かぶ島国アイスランドは厳然とした自然の美で知られるが近年、観光客が急増している。昨年の観光客は前年比19%増の67万2000人。10年前の2003年の実に2倍となった。

 アイスランド政府観光局のオロフ・アトラドッティル(Oloef Yr Atladottir)局長は「毎年20%ずつの増加は大変だ。すべての産業がこうした(急速な)発展を迫られている」と言う。

 1990年代のアイスランド人歌手ビョーク(Bjork)の成功、2008年の金融危機、10年のエイヤフィヤトラヨークトル(Eyjafjallajoekull)氷河の火山噴火などによって、良くも悪くもアイスランドの国際的知名度は高まった。

 有名な青い温泉「ブルーラグーン(Blue Lagoon)」から、まだあまり知られていない休火山スリーヌカギガル(Thrihnukagigur)の火口まで、絶景を誇るアトラクションは豊富だ。英国から来たというレオン・ジョーンズさん(37)は「アイスランドならではの一味違うものを見に来た。間欠泉や溶岩原、温泉なんかをね」と答えた。

■クローナ暴落で訪れやすく

 かつては裕福な観光客が中心だったが、08年に為替市場でアイスランド・クローナが対ユーロで47%暴落して以来、アイスランドはかなり訪れやすくなった。しかし、この小さな国にどれだけの観光客受け入れができるか、疑問視する声も上がり始めている。

 アトラドッティル観光局局長によれば、2011年以降はオフシーズンの観光客開拓に力を入れている。おかげで集中していた夏の観光客訪問率が50%を切るようになった。「観光業の中のどの部分を成長させたいのか、今や明確にする必要がある。ハイシーズンにはこれ以上、観光客を受け入れられないところもある」という。

 一方、南アイスランドへの観光誘致を担う「ビジット・サウスアイスランド(Visit South Iceland)」社のデビッド・サミュエルソン(David Samuelsson)社長は、今の観光ブームの影には「多額の投資がある」と言う。「(金融)危機の前に作った多額の対外債務をアイスランドは抱えている。成功は必須だ」

 08年の金融危機を受けて同国が資本規制を導入して以降、観光業は主要な外貨獲得源ともなっている。そのため、デンマークからの独立以来最悪の不況に見舞われながらもレジャーサービス産業は成功した。高級ホテルからユースホステル、氷河ツアーを提供する家族経営の企業からホエールウオッチング船をチャーターする大企業まで、成長は業界全般に及んでいる。

 最も注目を引いたのは、アイスランド北東部に広大な原野を購入し、欧州最大の自然保護区を備えた高級リゾート建設したいとする中国の不動産投資家、黄怒波(Huang Nubo)氏の計画だった。しかしアイスランド政府は購入予定地の広大さを懸念し、11年にこの計画を却下している。(c)AFP/Hugues HONORE