【5月6日 AFP】新たな産業革命の到来かと専門家らに言わしめ、発明当時の蒸気機関や電信と同じくらいの重要性・可能性を秘めているとされる技術──3Dプリント。

 どんな物でもボタン一つで作り出すことができるプリンターという発想は、まるでSFの世界の技術に思えるかもしれない。

 だが、3Dプリントの技術は現実のもので、既にめざましい発展を遂げている。今や研究室やニッチ産業の域を超えてより幅広い市場に進出する準備はできているようだ。

 スイス連邦工科大学ローザンヌ校(Ecole Polytechnique Federale de LausanneEPFL)のオリビエ・オルモ(Olivier Olmo)氏は、「10年か20年以内には、この(3Dプリント)技術が誰にでも利用可能になるという、一種の革命が起きると私は確信しています」と将来に向けての抱負を語る。同氏曰く、制限は「現在の技術」だという。

■「製造」の概念も変わる

 3Dプリントでは3次元の設計図が必要となる。設計図は実在の物体をスキャンするか、もしくはコンピューター上で一から作成する。この設計図から2次元の「層」のデータを構築し、プリンターへと送られる。プリンターはプラスチック、カーボン、金属などの素材を薄い層として何度も重ね、一つの物体を作り上げる。堅い製品にも柔らかい製品にも対応でき、可動部品を組み込むことも可能だ。

 国際法律事務所「DLAパイパー(DLA Piper)」の技術専門家、サイモン・ジョーンズ(Simon Jones)氏は、「理論上、実在する全てのものは、3Dプリントで製作することが可能。われわれが知る『製造』を変える可能性があります」と話す。また3Dプリント技術を使うことで、必要な製品を必要とされている場所で製作し、環境への負荷を減らすことができるほか、小規模生産におけるコスト削減、さらには大量生産による無駄を防ぐことも可能になるかもしれないという。

 3Dプリントで作れるのは、実在する製品の複製だけではない。ベルギーに拠点を置く3Dプリントサービス「i.materialise」のカルラ・ファン・ステーンベルゲン(Carla van Steenbergen)氏によると、骨折患者の体の特徴に合わせてボルトを作ることにより、従来型のボルトより劣化の進行度合いを遅くするなど、これまでの技術では不可能だったことも可能になるかもしれないという。

 医療用の3D画像データから模型を作成するサービスを提供する企業「プリビュー・メディカル(Prevue-Medical)」のトリスタン・ルノー(Tristan Renaud)氏は、「正直、3Dプリントは主流と言えるにはまだほど遠い。だが、何かが起きている(始まっている)兆候はある」と語る。同社の技術責任者、エリック・ジーグラー(Erik Ziegler)氏によると、プリンターのコストを考えれば、今後ともオンラインの3Dプリントサービスが主流になる可能性が高いという。

 別のコンセプトとして、マサチューセッツ工科大学(Massachusetts Institute of TechnologyMIT)が考案した「ファブラブス(Fablabs)」がある。「ファブリケーション(製作)」と「ラボラトリーズ(研究所)」を短くした造語で、小規模の製造施設を広く一般に提供することを目的としている。

 自宅での3Dプリントに興味がある人々に向けては、2000ドル(約20万円)ほどで手に入るプリンターが幾つか販売されている。コンピューターの価格がそうだったように、需要が拡大するにつれプリンターの価格は徐々に下がっていくとみられている。

■知的財産権など多くの問題も

 一方、3Dプリント技術は、知的財産の分野をはじめ、多くの問題を内包している。すでに所有している物の複製を作るのは正しい行為と言えるのか。3Dの物体をデザインした人々の権利は、音楽産業を悩ませているファイル共有のような問題から守られることになるのか、など。

「商業的な影響は増大するでしょう。3D(プリント)技術のコストが実用的なレベルまで下がれば、それを防ぐのはとても難しくなるかと思います」(ジョーンズ氏)

(c)AFP/Jonathan FOWLER