【4月25日 AFP】米ボストン(Boston)の爆発事件は、過激思想の人物が決意を持って単独で行動した場合、そのテロ攻撃を阻止することは実質的に不可能であるという問題を浮き彫りにした。

 容疑者の1人、タメルラン・ツァルナエフ(Tamerlan Tsarnaev)容疑者は、前週の爆発事件以前に米当局の監視網に引っかかってはいた。にもかかわらず、将来の同様の攻撃を阻止することは失敗に終わる可能性が高いと専門家は警告している。

■憲法が保障する権利

 対テロ専門家らは、容疑者のツァルナエフ兄弟2人がインターネットのイスラム過激派の情報源を通じて過激化したとすれば、それはこの事件が国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)などの集団による大がかりな計画の一部として実行された場合よりも警戒すべきだと指摘する。

 タメルラン容疑者は、マサチューセッツ(Massachusetts)州ケンブリッジ(Cambridge)のモスクで、過激派的な行動の兆候を見せていた。そして2011年にはロシア当局の要請により米連邦捜査局(FBI)から事情聴取を受けている。

 タメルラン容疑者はその後、ロシアのダゲスタン(Dagestan)を5か月間ほど訪れている。この旅を察知することに米当局は失敗しているが、旅客名簿に記載された氏名につづり間違いがあったことがその原因とみられている。

 しかしながら、FBIの元ナンバー2で、国家安全保障当局副局長も務めた対テロ専門家のフィリップ・マッド(Philip Mudd)氏は、たとえタルメラン容疑者のこの行動を米当局が察知していたとしても、その時点で同容疑者がなんの犯罪行為もしていない以上、米当局にはほとんど何もすることができなかっただろうと指摘する。

「われわれは、過激思想を持つことを認め、言論の自由を認める憲法を持っている。仮にそうしたいと考えても、この国に滞在する過激思想の持ち主全員を捜査することはできない」とマッド氏は述べる。米国内に滞在する過激思想の持ち主全員を監視することも不可能だとマッド氏は付け加え、「そのような人物はあまりに大勢いて、そして彼らは違法行為を行っていない」と語った。

 鍵は、過激派ウェブサイトにアクセスした個人の中から、暴力行為の実行に向かっている兆候を見つけ出すことだろう。だが先週の事件まで、タメルラン容疑者は自らの殺人計画について一切の兆候を見せていなかった。

 マッド氏の考えは、アメリカン大学(American University)の公正・法・社会学部のジョセフ・ヤング(Joseph Young)助教も共有する。「真に不安な部分は、誰がこのような行為をする可能性があるのか、予測するのが極めて困難だということだ」とヤング氏は述べ、「本当に難題だ。FBIも常に100%正確だとはいえない」と語った。

■イデオロギーから感情へ、大規模計画から予測困難な犯行に

 マッド氏は、事件前にツァルナエフ兄弟を支配していた思想は、「イデオロギーに動かされたというよりも、感情に動かされた」ものだったと推測する。

「(犯行が)アルカイダによる作戦から、その関係グループ、そして特にこれらの本国育ちの子どもたちに移行する様子を特徴づけているといえる。私の客観的な分析は、これらの犯罪は現在、イデオロギー的であるよりも感情的であるということだ」

 一方、ヤング氏も、過去のアルカイダによる攻撃の方が予測が容易だったと忠告する。「9.11以前に起きたことのパターンを見ると、そこで進められていた計画ははるかに明らかだった」とヤング氏は述べ、アルカイダの意図は極めて明確だったと付け加えた。

「ああいった種類の攻撃はより破壊的ではあるが、一方で予測が容易であるという側面がある。(ボストンのような)種類の攻撃は、そこまで破壊的ではないが、予測が極めて困難だ」

■ボストン事件モデルにした小規模攻撃、アルカイダが採用する可能性

 米シンクタンク「アメリカンエンタープライズ研究所(American Enterprise InstituteAEI)」のアナリスト、マーク・タイセン(Marc Thiessen)氏は、ボストンの事件が新手の対米テロリズムを作り出した可能性について指摘する。

「ボストンの爆発事件を取り上げる大量のニュースを眺め、子ども2人がバックパック爆弾で米国の主要都市を封鎖させることに成功したのを目撃し、アルカイダの指導者らは、このような小規模攻撃を連続させることで、大量犠牲者を出す1回の大がかりな攻撃と同様のインパクトを与えることができると気付いたかもしれない」と、タイセン氏は米紙ワシントン・ポスト(Washington Post)に寄稿した。

「仮にそうなれば、それは米国にとって極めて悪いニュースになるだろう。全ての場所を、全ての時間、全ての攻撃から守ることは、不可能だからだ」

(c)AFP/Mathieu Rabechault