【4月22日 AFP】米ボストン・マラソン(Boston Marathon)爆発事件の容疑者で、米国で育ったチェチェン系の兄弟は、インターネット上の情報を通じて「過激化」し自国に攻撃の矛先を向ける「新世代のジハーディスト(イスラム過激派戦闘員)」像に一致する──。

 警察との銃撃戦で死亡した兄のタメルラン・ツァルナエフ(Tamerlan Tsarnaev)容疑者(26)と、負傷した状態で警察に拘束された弟のジョハル・ツァルナエフ(Dzhokhar Tsarnaev)容疑者(19)の親族によれば、イスラム教徒であるチェチェン人の一家は、難民として約10年前に米マサチューセッツ(Massachusetts)州ボストン(Boston)近郊のケンブリッジ(Cambridge)に渡った。当時、弟のジョハル容疑者はまだ10歳前後だった。

 ツァルナエフ兄弟の動機はまだ解明されておらず、不明な点は多い。ただ兄弟は一家のルーツ、露・北カフカス(North Caucas)地方で「チェチェン紛争」から現在まで続く動乱によって過激化したというよりも、インターネットを通じて煽られていった感が強いと米シンクタンクなどの専門家たちはみている。

■故郷を追われて過激化する思想

 米ランド研究所(RAND Corporation)国際安全保障防衛政策センター(International Security and Defense Policy Center)のセス・ジョーンズ(Seth Jones)氏は「チェチェン問題はそれほど関係ない。チェチェンで過激化したわけでも、訓練キャンプにいたわけでもなく、それよりもソーシャルメディアを通じて過激化したのではないか」と弟のジョハル容疑者が拘束される前の時点で語っていた。

 北カフカス地方に詳しい専門家でカーネギー国際平和財団(Carnegie Endowment for International Peace)のバイラム・バルジ(Bayram Balci)氏は、幼少時代に故郷などから追われると、後年、思想が過激化しやすくなると指摘する。

 兄のタメルラン容疑者は2012年8月に動画投稿サイト「ユーチューブ(YouTube)」に自分の名前でページを作成しているが、「テロリズム」というコーナーの中にイスラム(過激)主義者のビデオを集めていた。米民間情報機関のSITEインテリジェンス・グループ(SITE Intelligence Group)によれば、その中にはオーストラリアのイスラム原理主義指導者フェイズ・ムハマド(Feiz Muhammad)師のビデオへのリンクや「テロリスト」と名付けた再生リストも含まれていた。

 弟のジョハル容疑者はツイッター(Twitter)とフェイスブックに似たロシア版交流サイト「フコンタクチェ(Vkontakte)」のユーザーで、プロフィールに自分の世界観は「イスラム」だと書き、チェチェンやイスラム関連の情報リストを作成していた。カフカス地方におけるイスラム教徒への不当な扱いを皮肉ったジョークもあった。

 ブルッキングス研究所(Brookings Institution)のカフカス専門家、フィオナ・ヒル(Fiona Hill)氏は、チェチェン関連のビデオはインターネット上に多く、それが国際テロ組織アルカイダ(Al-Qaeda)のネットワークによって勧誘の道具として組み込まれていると指摘する。

 また同研究所のテロリズム専門家ベン・ウイッテス(Ben Wittes)氏は、ボストンでの事件は国際的に「共鳴」し得ると警告する。「容疑者たちがもしも誰かと接触していたとすればそれが誰なのか、指示した者がいるとすればそれが誰なのか。それらは重要な問題だ」

■「国産ジハーディスト」

 ジョージ・ワシントン大学(George Washington University)国土安全保障政策研究所(Homeland Security Policy Institute)のフランク・シルフォ(Frank Cilluffo)所長は、自分の住む国でアルカイダのために戦いたいという者たちは多く、特にアルカイダの戦闘に加わろうと国外へ出た者が帰国し、自国を攻撃する例が目立つという。

 ボストンの事件で使用された爆発物を詰めた圧力釜は、イエメンを拠点とするアルカイダ系組織の「アラビア半島のアルカイダ(Al-Qaeda in the Arabian PeninsulaAQAP)」が発行している英語版の雑誌「インスパイア(Inspire)」で製造方法が掲載されていた。この組織は「ジハーディスト志願者」に自分の国を攻撃するよう奨励もしている。

 米国内のジハーディスト像に関するランド研究所の報告書著者、ブライアン・ジェンキンス(Brian Jenkins)氏によれば、「国産ジハーディスト」の74%がアメリカ国籍を持ち、そのうち49%が米国生まれ、29%が帰化した者だという。同氏はこのようなジハーディストの多くが「抱え持つ不満や怒りを(不特定多数と)共有・再確認できるインターネット上で、過激化への道を歩み始める」と分析している。(c)AFP/Chantal Valery