【4月9日 AFP】8日死去した英国のマーガレット・サッチャー(Margaret Thatcher)元首相は、ロンドン(London)のダウニング街10番地(10 Downing Street)の首相官邸の中では、夫デニス・サッチャー(Denis Thatcher)氏に献身的に支えられる妻、そしてときに双子に手を焼くこともあった母としての顔を見せていた。

 サッチャー元首相は自伝の中で、「デニスがそばにいてくれなければ、11年以上も首相を務めることはできなかった」と語っている。

「鉄の女」の異名で知られたサッチャー元首相は、仕事に対する厳しい姿勢を家庭にもそのまま持ち込み、デニス氏の力を借りつつ双子のマーク(Mark)さんとキャロル(Carol)さんの育児に目を配りながら家事をこなした。

 サッチャー元首相の経済・政治観は、イングランド(England)東部の町グランサム(Grantham)のメソジスト教会牧師であり食料雑貨商で、市会議員も務めた父アルフレッド(Alfred)氏に育まれた。一方で母のベアトリス(Beatrice)さんから受け継いだ主婦としての性分から、どんな政治的困難の渦中にあっても家事をすることを苦にしなかった。

 サッチャー元首相は1951年12月13日に結婚。キャロンさんとマークさんは予定日より6週間早く帝王切開で生まれた。妊娠中に体調が優れず、一男一女に恵まれたことから、それ以上子供を作る必要性を感じなかった。

■仕事と家事をこなす

 サッチャー元首相は首相になる前から、ロンドン西部のチェルシー(Chelsea)での家庭生活においても自らの労働倫理を貫き通し、自分の仕事と弁護士の資格を得るための勉強、家事の切り盛り、買い物、裁縫、料理、そしてアイロンがけをこなした。

 サッチャー元首相の一晩の睡眠時間はわずか4時間だったという。元首相に就寝を命じることができたのはデニス氏だけ。疲れ切ったスタッフはその後やっと休めたという。

 1990年に首相の座を追われてからも、サッチャー元首相は容易にペースダウンができなかった。娘のキャロルさんによると、首相に就任した1979年以降自分で電話をかける必要がなかったためしばらくはダイヤルするのに慣れず、報道で目にした国際問題を解決しようとしばしば受話器を手を伸ばしたが、実際に電話をかけることはなかったという。

 サッチャー元首相が最晩年に、ロンドンの高級住宅地、チェスタースクエア(Chester Square)の自宅でどのように暮らしていたかについてはあまり知られていない。元首相は介護人らと共に生活し、時折近しい友人の訪問を受けた。老衰し足元もおぼつかず、認知症も患ったことから、公式行事への参加は見送ったが、まれに夕食のため外出することはあった。

 2012年3月、白髪のサッチャー元首相がロンドンの公園で腰を下ろし、介護者に寄り添われながら通り掛かった犬をなでている写真が撮影されたが、そこには政治家として世界の耳目を集めたかつての面影はもはや見られなかった。(c)AFP/Robin Millard