【3月29日 AFP】麻薬組織同士の抗争絡みで過去6年間に1万500人もが殺害されたメキシコの街、シウダフアレス(Ciudad Juarez)。この街内のある部屋で、歯科医にして検視の専門家、アレハンドロ・エルナンデス(Alejandro Hernandez)氏が乾燥して黄ばんだ遺体を透明の浴槽の中に浸していく。殺人事件を解決するため、ミイラ化した遺体を「よみがえらせる」のだ。

 米テキサス(Texas)州と国境を接するこの街は90年代以降、「ホミサイド」(殺人)ならぬ「フェミサイド」(女性殺し)と言われるほど女性の殺害も横行していることで悪名高い。エルナンデス氏は、シウダフアレスがあるチワワ(Chihuahua)州の検察局検視官だ。

■あざや傷痕もよみがえる

 女性たちの死体は所構わず遺棄され、砂漠気候によってすぐに乾燥しミイラ化してしまう。このため、被害者の身元割り出しや死因究明が非常に困難となっていた。そこでエルナンデス氏の出番だ。「シウダフアレスの気候では通常、死体は乾燥したり硬化して、皮膚は太鼓の皮のように張ってしまう」と説明するエルナンデス氏のチームは、これまでに150人の死因を解明してきた。

 例えば死体の指紋を採取するために指の水分を復活させる技術は10年以上も前からあるが、エルナンデス氏が08年から用い始めた手法は、全身をよみがえらせるものだ。その技術は秘密で、同氏は近く特許を申請する考えだ。

 ミイラを「戻す」部屋には、死体と化学薬品の臭いが漂っている。ベルトで吊された死体は、密閉され特殊な溶液が入った浴槽の中にゆっくりと下ろされていく。死体は、この液体に4~7日間浸けたままにされる。時には体の一部だけを浸ける時もある。

「遺体や体の一部が、より自然に見えてくるまで液の中で遺体を常に回転させます。そのうちにあざや傷痕といった病理学的な特徴や外傷が認められるようになり、死因の特定につながるのです」(エルナンデス氏)

 この特殊な浴槽を用いた検視技術はコストもかからないという。

■遺棄死体の発見は続く

 メキシコの「殺人の都」と呼ばれたシウダフアレスだが、近年は二つの麻薬組織、シナロア(Sinaloa)とフアレス(Juarez)の抗争も鎮静化し、市内の殺人発生率も劇的に減った。しかし、依然として行方不明となったままの女性たちは多く、遺体の発見も後を絶たない。

 今月になって、行方不明者の母親たちのグループと警察が連携してフアレス近郊の砂漠地帯で捜索を行い、いくつもの人骨を発見した。この骨もまた、誰のものなのか突き止められる日を待っている。(c)AFP/Jesus Alcazar