【3月12日 AFP】高等教育を受けたにもかかわらず専業主婦になる女性は、大学の学位を「全く無駄にしている」── 昨年、英紙のインタビューでこのような厳しいコメントを寄せたのは、自身も2児の母親であるデンマークのヘレ・トーニングシュミット(Helle Thorning-Schmidt)首相だ。

 優雅さとカリスマ性、意志の強さを兼ね備えたトーニングシュミット首相は2011年10月から政権のトップに立ち、女性の政界および職場への進出という北欧での長きにわたる伝統を自ら体現した。ただ北欧においても、管理職レベルで活躍する女性の数は少ないのが現状だ。

 トーニングシュミット氏は10年に放送された人気テレビドラマ『コペンハーゲン/首相の決断(原題Borgen)』をなぞるかのように、同国初の女性首相に就任。ドラマでは、初の女性首相であるヒロインのビアギッテ・ニュボー(Birgitte Nyborg)が、毅然(きぜん)とした態度で政権運営に臨む一方、夫や子ども2人との家庭生活を維持しようと奮闘するストーリーが展開する。第1話では、妻が政治家を続けられるように、自身の仕事を一時中断する現代的な(考え方を持つ)夫が登場する。
 
 隣国スウェーデンのビルギッタ・オルソン(Birgitta Ohlsson)欧州連合担当相(37)の夫も同様の考えを持つ男性の1人のようだ。広々とした執務室でAFPのインタビューに応じた同相は、10年に娘が生まれた際に夫がその日から育児休暇を取り、1年後に託児所に預けられるようになるまで仕事を休んだことを明らかにし、(夫の協力を得ることのできた)自分は非常に恵まれていたと述べた。時々娘を職場に連れてきたため、「(執務室には)ベビーベッドやおむつ替え用テーブルがまだ残っているわ」と笑いながら付け加えた。

 一方で同相は、自身の夫が「例外」であるとした。スウェーデンでは子ども1人当たりにつき480日間の育児休暇が両親に認められているものの、父親が取得する育児休暇は全体の24%にとどまっている。それでもこの割合は世界的に見て多い。スウェーデンではまた、父親向けに約2か月間の育児休暇が用意されている。申請しなければ無効となるが、同国では公園でベビーカーを押している父親の姿が頻繁に見られる。

 ただ、10年2月に任命された際に妊娠中だったオルソン氏に対しては、厳しい意見が多く聞かれた。多くの政治評論家は、生まれてくる子どもの育児と職務の両立は難しいとの見解を示し、議員らが掲げるジェンダー平等社会より実際の社会規範が遅れていることをうかがわせた。

■国を挙げて女性の社会進出を促進

 北欧諸国では料金が安く質の高い託児所に、確実に子どもを預けることができる。政府間組織の北欧理事会(Nordic Council)によると、ジェンダーの平等は「北欧のアイデンティティーの一部で、民主主義国と福祉モデルの支柱」とされるためだ。

 現在、スウェーデンでは女性の82.5%が就労中であるが、パートタイムや、賃金水準が低い公共セクターでの仕事が多い。差別を監視する行政機関関係者は「法律では雇用主に3年単位で賃金格差の是正策を実施することが義務付けられている」と説明する。履行を怠った場合は罰金を科せられるリスクが生じるものの、実際に罰金を支払った雇用主はこれまでいないという。ただ法的措置が実施されたにもかかわらず、男性との賃金格差は16%と、1996年以来ほぼ横ばいだ。

 一方、ビジネス部門の多様性を推進しているオルブライト基金(AllBright Foundation)の幹部は、「わたしたちはジェンダー面で世界で最も平等な国を自称しているが、管理職に女性が占める割合が非常に低い点には留意するべきだ」と嘆いた。同基金の13年報告書によると、民間部門の女性最高経営責任者(CEO)は11年に7人だったものの、2年間で14人に倍増。ただそれでも調査対象251社中14社にとどまっているのも現状である。

 またスウェーデン統計局の12年のデータによると、会社取締役については代理役の61%が女性だったが、在任ではわずか4%だった。

 ノルウェーは女性取締役を増やすために、世界で初めて割当制度を導入。取締役の40%を女性とすることを、04年から国営企業に、08年からは大手上場企業に義務付けている。

 ノルウェーにおけるこの法律は、割り当てを逃れるため多数の企業が海外に移転するのではないかとの不安を招いたものの、現時点でそうした動きにはつながっていない。割当制度という変化が企業業績にほとんど影響を与えていないことは、調査で裏付けられている。

 オルブライト基金の幹部は、実績に基づいていないとの理由から割当制度に反対しているが、それでも女性の企業経営者を増やす必要性については認めており、「ジェンダーの真の平等」は実現したいとしている。「企業が多様化すれば収益性が向上し、スウェーデンは本当の世界のモデルになり得る」と強調した。

 また同基金の幹部によると、スウェーデンは女性議員が議席の45%を占め、男女比で世界の先端を行くという。しかしその一方では、北欧で女性の首相が誕生していない唯一の国でもある。デンマークのトーニングシュミット首相は、「スウェーデンではなぜ女性が政権トップに立ったことがないのか、わたし自身が毎日疑問に思っている」と、にこやかな表情で語っている。(c)AFP/Camille BAS-WOHLERT