【3月11日 AFP】インドネシアの「カエル売り」は目をつぶり、神に祈りながら大包丁を一気に振り下ろして、震えるその生き物の頭を落とす──。

 フランスのブラッスリーに並ぶ白いクロスのかかったテーブルで食事をする人々は知らないかもしれないが、彼らの大好きなカエルの脚の多くは、インドネシアの熱帯にあるじめっとした沼地で捕れたものだ。

 スリ・ムルヤニさん(41)はまるで工場作業員のように機械的にカエルの皮をはぎ、素手でカエルの内臓を引き抜く。一匹、また一匹と処理するたびに、同じ運命をたどったカエルの山が大きくなる。「カエルに嫌気がさしたら、お金のことだけを考えるのよ」とムルヤニさんは言う。首都ジャカルタ(Jakarta)郊外ボゴール(Bogor)の朝市でのことだ。

 夫のスワントさん(48)と夫婦でカエル猟に携わるムルヤニさんは、カエルをレストランや仲買人に売る。夫婦はインドネシアの最低賃金を大幅に上回る、1日50万ルピー(約4800円)を稼ぐ。

 毎晩8時になると、仲間のグループとともに自宅裏からそっと水田や小川に分け入って狩りを行うスワントさん。少しでも音をたてればカエルは逃げてしまうので、未明まで続く狩りは終始無言だ。仕事の装備はいたってシンプル。足ははだし、手に懐中電灯を持ち、木の棒の先に取り付けた網を使って、田んぼや川辺の泥の中にいるカエルをすくい上げる。しかし基本の道具の他に、カエルを探し出す「第六感」というのも備わっているのだろう。どれも同じにしか見えない濁った沼地から、数分で数十匹のカエルを捕まえる。

 スワントさんたちは毎晩、カニクイガエルなど数種類のカエルを50~70キロほど捕まえる。大半は国内で流通し、輸出にまわるのはその数分の一だ。とはいえ、インドネシアの多数派のイスラム教徒は、カエルを食用にすることは「ハラム」(禁忌)だとみなすため、買い手はもっぱら少数派の中国系住民だ。

■個体数減少と取引き禁止

 肉付きが良く、鶏肉に似た味は欧州で珍味とされ、重宝されている。特にフランスでは需要が高く、年間推計で約8000万匹が消費されている。フランス本国では1980年に捕獲も養殖も禁止され、その後の取引きはインドとバングラデシュに移ったが、これらの国でも個体数が著しく減少したことから80年代後半に輸出が禁じられた。そうしたことを背景に、インドネシアは世界最大のカエル輸出国となり、欧州圏では8割以上の輸入をインドネシア──スワントさんのような人々──に頼っているのが現状だ。

 一方、一部の環境保護団体はこのような現状に警鐘を鳴らしている。ドイツの環境保護団体プロ・ワイルドライフ(Pro Wildlife)などは、インドネシアのカエルの減少や絶滅を懸念する。同団体はタイのバンコク(Bangkok)で開催中の「ワシントン条約(絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約、Convention on International Trade in Endangered SpeciesCITES)」会議で、インドネシアのカエルについて提起している。

 しかしスワントさんにとってカエル猟は、あきらめるには実入りが良すぎる仕事だ。それに自分には「カエルハンター」の血が流れていると考えている。「1992年からカエル猟をやっている。私の父親もやっていた」。しかしカエル猟は男性の仕事で、自分には娘たちしかいないから、家族の伝統がこれからも続いていくかどうかは分からないとスワントさんは語った。(c)AFP/Kevin PONNIAH