【3月2日 AFP】先月、国際社会の訴えには全く耳を貸すことなく核実験を強行した北朝鮮──だがその国の最高指導者は、訪朝した米プロバスケットボール協会(NBA)の元スター選手デニス・ロッドマン(Dennis Rodman)氏をもてなす時間をもうけた。

 ロッドマン氏の今回のプライベートな訪朝に、米政府周辺の多くからは軽蔑や批判の声が上がっている。北朝鮮は国際社会から孤立しており、行動を改めなければいけないとのメッセージが損なわれることを、米政府は懸念している。

 一方で、ロッドマン氏の訪朝を擁護する人々からは、核開発計画は米国の「敵意」に対する返答だと主張する北朝鮮の態度を変えるためには、米国人との接触を増やすことが、詰まるところ最善の方法だと指摘する声も上がっている。

 訪朝中ロッドマン氏は、大喜びではしゃぐ金正恩(キム・ジョンウン、Kim Jong Un)第1書記と隣り合わせで、バスケットボールのエキシビションチーム、ハーレム・グローブトロッターズ(Harlem Globetrotters)の試合を観戦。その後、杯を交わした。ロッドマン氏は金第1書記のことを「いけてる若者」と呼び、「生涯の友人だと思ってほしい」と語りかけた。

 米国務省は、民間人の私的な旅行に口を挟む立場にはないと断りつつも、「恐らく世界最悪の人権状況にある」国家の指導者を称賛したロッドマン氏の発言を問題視している。同省のパトリック・ベントレル(Patrick Ventrell)報道官は「(北朝鮮)政権は自国民を食べさせなければならない時に、外国からの客のためにワインや食事に金を費やしている。通常通りの対応をとれる時ではない」とコメントした。

 過去には国務省自らが「バスケ外交」に乗り出した時期もある。現職の米国務長官として北朝鮮を訪問した唯一の人物であるマドレーン・オルブライト(Madeleine Albright)氏は、2000年の訪朝の際、金第1書記の父親で当時最高指導者の故金正日(キム・ジョンイル、Kim Jong Il)総書記に、ロッドマン氏とその伝説的チームメート、マイケル・ジョーダン(Michael Jordan)氏のサインが入ったバスケットボールを贈っている。

 この時オルブライト氏に随伴した北朝鮮外交の専門家で、現在はスタンフォード大学(Stanford University)で客員研究員を務めるロバート・カーリン(Robert Carlin)氏は、米政府は当時、何か「ユニークな贈り物」をしたいと考えていたと回想する。また金総書記は、バスケットボールが「親善」を表すことを理解していたという。

 今回の金正恩氏のロッドマン氏に対する歓迎の姿勢は、何十年にもわたって米国は敵だと教え込まれてきた自国民に対するメッセージになったとカーリン氏はみる。「金正恩氏から北朝鮮国民に発信されたメッセージは、『米国人はそんなに悪者じゃない、わが国は彼らと協力もできる、隣り合わせに座って一緒にスポーツもできる』というものであったことが、はっきり受け取れます」

 ロッドマン氏が北朝鮮の徹底的な国家統制についてよく知っていたのかどうかは定かでない。頻繁に色が変わるロッドマン氏の髪の毛は、北朝鮮に「承認」されるような身なりでは決してないだろう。

 米シンクタンク、マンスフィールド財団(Mansfield Foundation)の事務局長で北朝鮮専門家のL・ゴードン・フレーク(L. Gordon Flake)氏は、「ロッドマン氏があの政権や強制収容所の恐怖を全く理解せずに金一族を『素晴らしい一族』などと称賛していることは、人権的観点から考えれば懸念すべき事柄だということは想像できるはずだ」と批判した。「金正恩氏を『いけてる若者』などと呼び、小さなぬいぐるみか何かのように見ていれば、いつかしっぺ返しを食らうと思わずにはいられない」

 ロッドマン氏訪朝の6週間前には、米グーグル(Google)のエリック・シュミット(Eric Schmidt)会長と前ニューメキシコ(New Mexico)州知事のビル・リチャードソン(Bill Richardson)氏がやはり北朝鮮を「私的に」訪問しているが、一行と金正恩氏の会見はなかった上、昨年11月に北朝鮮当局に身柄を拘束された米国人ケネス・ペ(Kenneth Bae)さんとも面会できず、米政府関係者から同じく批判を浴びた。(c)AFP/Shaun Tandon