【2月27日 AFP】オーストラリアで幼いリリちゃんが1歳の誕生日を迎えた日、彼女の母親は遠く離れたインドでリリちゃんを出産した日を思い起こしていた。その日、生まれてきたリリちゃんの瞳を代理母のセイタ・タパ(Seita Thapa)さん(31)が見つめることはなかった。

 タパさんは昨年2月、インド・ニューデリー(New Delhi)にある代理出産医院「インド・サロガシーセンター(Surrogacy Centre India)」で、女性から卵子提供を受けた同性愛者の男性カップルの代理母としてリリちゃんを出産した。その時、生まれてきたリリちゃんから意図的に「目をそらせた」とタパさんは語る。「その子を見たいなんて思えるでしょうか。私には自分自身の子どもがいるのに」。タパさんは16歳と18歳の子どもの母親でもある。

 生まれてくる赤ちゃんが自分の子どもではないという状況に精神的に対応できるよう、事前に医院からのサポートプログラムもあったとタパさんはいう。

 インドの代理母ビジネスは、安価で合法的に親となれることから、子どものいない外国人カップルらが大挙し大繁盛している。

 インド産業連盟(Confederation of Indian Industry)の試算によると、インドの代理母ビジネス規模は年間20億ドル(約1800億円)を超える。

 インド政府が高水準な医療を低価格で受けられる「医療ツーリズム」を推進する一方で、裕福な外国人が貧しいインド人に金銭を支払って赤ちゃんをもうけるという代理母ビジネスは、まるで「赤ちゃん工場」との倫理的な懸念もインドの人々の間に広がっている。

 こうした批判をうけ、インド政府は最近になって外国人の同性愛カップルや独身者の代理母ビジネス利用を禁止したが、今度は人権団体や不妊治療医院などから差別を助長するとの批判を受ける羽目に陥った。この点を除けば、代理母ビジネスへの規制は、ほぼない。

■インドの代理母、高額の報酬に魅かれて

 真っ黒な髪とインド北東部の人たち特有のアーモンド型の目を持つタパさんは、自身の子宮を提供してオーストラリアの男性カップルの親になる夢をかなえさせた自身の行為は間違っていないと考えている。「私が代理母を引き受けたのは、子どもたちの将来のための預金が欲しかったから。それに子どもを持てない人たちが親になることを助けてあげたかった」

 タパさんは、自分もリリちゃんと豪カップルの家族の一員のように感じていると話し、これからも彼らのためにずっと祈り続けると語った。このときタパさんの目に突然、涙があふれた。

 タパさんは代理母出産で得た金額については語らなかったが、タパさんが代理母出産したインド・サロガシーセンターによると、1回の出産で代理母に支払われる報酬は、代理母出産にかかる総額2万8000ドル(約260万円)のうち6000ドル(約55万2500円)だという。

 タパさんは2度目の代理母出産を、4月にも引き受けたいと話している。

 一方、インドでも貧困層の多いウッタルプラデシュ(Uttar Pradesh)州出身のマムタ・シャルマ(Mamta Sharma)さん(29)は、すでに2回、代理母を引き受けている。昨年はオーストラリア人カップルの子どもを出産した。4人の子どもを持つシャルマさんは「受け取ったお金で、私の人生のすべてが変わった」と話す。シャルマさんは代理母で稼いだ資金で新居を建てたという。

 2008年に開業したインド・サロガシーセンターでは昨年、291人の赤ちゃんが代理母出産で生まれた。その赤ちゃんたちは現在、カナダ、オーストラリア、日本、ノルウェー、ブラジルなど15か国に暮らしている。

 インド・サロガシーセンターのような代理母医院は、ニューデリーを含めインド各地に数十医院が存在するが、その多くはメディア取材を受け付けていない。

■外国人カップルには「いちるの望み」

 インドの女性たちに代理母を託す側の思いは、どうなのだろうか。

 ブラジル出身の女性でルクセンブルクに住むマルシアさん(40)は3年間、努力したが子宝に恵まれず、夫とともにインド・サロガシーセンターを訪れた。

 「待合室に飾られた赤ちゃんたちの写真を目にしたら、思わず涙が込み上げてきました」とAFPに語るマルシアさんだが、家族には代理母出産を依頼することを秘密にしているという。

 また代理母となる女性とは会わないほうが良いとマルシアさんは考えている。「妊娠が成功するかどうかも、まだわからないから。私たちは、これまで失敗してばかりだった。もう失望するのはたくさん」

 マルシアさんは体外受精した自身の卵子を代理母の子宮に移植する手法を希望しているが、これが失敗した場合には卵子提供を受ける考えだという。「当初は、私の子どもを、ほかの女性が宿すという概念を受け入れることは簡単ではなかった。でも、それしか解決法がないなら、私たちは、まるで奇跡のような、そのやり方で赤ちゃんをつくると決めたんです」(c)AFP/Beatrice Le Bohec