【2月4日 AFP】マレーシアのタシュニ・スクマランさん(22)はヒンズー教徒のため牛肉は食べないものの他の肉料理は好きで、マレーシアのレストラン紹介ブログ(フードブログ、通称フログ)で知ったポークバーガーが最近のお気に入りだ。

■ブログがレストランの情報源に

 イスラム教が国教のマレーシアでは、主要メディアがイスラム教で禁止されている豚肉などの食品についてほとんど紹介しない。だがインターネットのブログ経由で、大きな中国人、インド人のコミュニティーを持つマレーシアで、ハンバーガーのブームが到来している。「フログでポークバーガーのことはいつも読むけれど、新聞ではほとんど見たことがない。(イスラムの戒律で食べることを許される)ハラール食でないからでしょう」とスクマランさんは語る。

 フログはアジアの食文化の会話を独占するほどの勢いだ。新しい料理や評判の良い小さなレストランなどに食事客を導いている。オーストラリアの「フロガー」、タン・ンゴさんは「食事レビューの民主化」と定義する。 「新聞のレビューは毎週数ページ分に制限されている。ブロガーを特に好んでいるのは小さなレストラン。なぜなら、これら小さなレストランの多くは、新聞の論評ではまず取り上げられる可能性がないからだ」とンゴさんはAFPの取材に語る。

 フログは世界的な現象ではあるものの、特にアジアで熱心な読者を獲得している。アジア人は食文化に対する情熱が強く、味にもうるさい。そして食文化が文化的に重要な意味を持っている。

 その中でもマレーシアは特に情熱が強い。マレーシアのレストランは屋外のカフェや屋台がほとんどだ。これらは主要メディアのレストラン評などで紹介するには規模が小さすぎる。だがブログでは、これらの小さな店舗が「最高の蒸し麺を提供するお店」や「スパイシーなカレーが1番おいしい店」などの議論を触発する役割を果たしている。「もう、誰も食事前に祈りを捧げることはしない。代わりに(料理の)写真を撮影している」と、観光ガイド本「タイムアウト・マレーシア(Time Out Malaysia)」のマーケティングマネージャー、Nazeen Koonda氏は語る。

■人気フログはビジネスに

 フログへのアクセスが増えるに連れ、一方で、それをビジネスにする方法が編み出されている。

 昨年12月に150万ページビュー数を記録した「www.ladyironchef.com」の運営者、シンガポールのブラッド・ラウさんは、サイト内に表示する広告枠を販売している。広告は食事関連に限定していない。

 スクマランさんのお気に入りのポークバーガーを提供するクアラルンプール(Kuala Lumpur)のファストフード店「ニンジャジョー(Ninja Joe)」は2009年に1号店をオープンしたが、売り上げ急増により現在は5店舗を構えている。

 ニンジャジョーの経営者は、成功はブログのおかげだと語る。新聞は、ハラール食でないポークバーガーの流行について取り上げようとしなかったという。 「われわれがブロガーを招待したのではなく、彼らがやって来た。昨年はわれわれの店舗について130件を超えるブログ記事があった」と経営者は述べ、一度も広告を出したことはないと付け加えた。

■「高評価」に金銭授受?

 だが、フログの情報は本当に信頼できるのだろうか。フログが成長する中、この問いかけの機会はますます増えている。

 これらの懸念の中で最大のものは「高評価したら対価を支払う」というビジネスだ。レストランをメディアで紹介したり高評価のコメントをしたりすることを、高額な値段で売るブローカーが多数登場した。  韓国でレストラン経営に成功した俳優のトニー・ホン(Tony Hong)さんは、2011年に人気レビューサイトへのレストラン掲載を中止した。同サイトの常連が、高評価のコメントを付けることに12万ウォン(約1万円)を要求したからだという。「その申し出を拒否すると、大量の悪評コメントが投稿された」とホンさんは説明している。

 クアラルンプールの地元紙マレーメール(Malay Mail)のフード部門編集者、Lee Khang Yi氏は、マレーシアのブロガーは、高評価の記事を書くごとに300~1500リンギット(約9000~4万5000円)を稼ぐことができると語る。

 またシンガポールのブロガーは、人気ブログでの高評価記事に対して、レストラン側は最高2000シンガポールドル(約15万円)まで支払うと述べている。

 一方、レストラン側も、カメラを手にしたブロガーたちが無料の食事を要求する出来事が増えていると話す。ブロガーたちは、拒否すれば悪評をブログに書くと脅すのだという。

 人気サイト運営者のブラッド・ラウさんは、2010年に人気レストランで友人3人と一緒に食事をした際に、435シンガポールドル(約3万3000円)の料金支払いを拒否したとの疑惑が持たれ、このことを公式に否定している。

 ラウさんによると、ラウさんはレストラン側に味見の招待を受けたという。だが結局、160シンガポールドル(約1万2000円)分だけ渋々払った。残りはレストラン側が肩代わりした。

■食文化豊かにするネット

 しかし、批判はあれども、フログとソーシャルメディアは食文化を豊かにし、小さなレストランに新たな機会を与えたと、タイムアウトのクアラルンプール編集者は語る。 「ブログや既存メディア、ソーシャルメディアで取り上げられることで、議論が起きる。そこでトレンドが生まれ、新たな料理を人びとが試すことで新しい味覚が発達し、食事シーンもどんどん洗練されて行くのだ」 (c)AFP/Shannon Teoh