【2月1日 AFP】中米で最も恐れられているギャングの一つ、エルサルバドルの「バリオ18(Barrio 18)」──頭からつま先まで入れ墨で覆われた者もいる強面の男たちだが、うち約20人のメンバーが、犯罪の世界から足を洗うために「パン作り」を始めた。

 同国の凶悪なギャングたちの間で停戦協定が交わされたことを機に、普通の市民に戻りたいと願った彼らは、暴力に満ちた過去を捨て、首都サンサルバドル(San Salvador)の東にあるイロパンゴ(Ilopango)の町にパン製造販売店を開くことにした。

 そのうちの1人が、ストライプのシャツとブルーのズボンの下に入れ墨を隠すオスカル・バスケス(Oscar Vasquez)さん(24)だ。「パンを作ることで、将来への希望を持つことができる」と語るバスケスさんには、タティアナ(Tatiana)という名の4歳の娘がいる。「努力して一生懸命働けば、家族を養える。たいした金にはならないけど」

 パン店は2週間前、肉体労働者が集まるここイロパンゴの小さな建物でオープンした。店の看板には「18-いらっしゃいませ」と書かれている。

 このパン店は、2012年3月にバリオ18とその宿敵ギャング「マラ・サルバトルチャ(Mara Salvatrucha)」が停戦協定を結んで以降初の社会復帰の試みだ。当局によると、協定によって殺人の発生率は1日当たり14件から5件にまで減った。

 人口610万人のエルサルバドルで活動中のギャングの数は約5万人で、刑務所には1万人が収容されている。殺人や恐喝などの犯罪の頻発により、同国は世界で最も犯罪の多い国の一つとなっている。

 イロパンゴのサルバドル・ルアノ(Salvador Ruano)町長の支援を受けたギャングのメンバーたちは、屋根もドアもなく、水道や電気も通っていなかった広さ40平方メートルの小さな家屋を改築し、パン店へと変えた。店は青く塗られ、電気もつながった。水道はまだ通っていないが、隣人たちは「パンディジェロス」(中南米でのギャングの呼び方)が水道代を払えるようになるまで、自分たちの家の水を分け与えている。従業員らは夜明けと共に、パン生地を練りやすいようレンガで高さを調節したテーブルやガスこんろを使い、パン作りに励む。出来上がったパンはカウンターに並べられる。

 ホセ・ガルダメス(Jose Galdamez)さん(32)はパンが焦げないように慎重に窯を見守りながら、「神様のおかげで、私たちは自分たちが作った物を売ることができている。若者たちを路上から引き離すことが目標」と語った。

 顔まで全身入れ墨で覆われたフェリクス(Felix)さん(25)は、4年間を獄中で過ごした後、2か月前に出所した。今は、4歳と2歳の娘に良い暮らしをさせるためにこのパン店で働いている。「僕たちはまた社会の一員として仕事に就き、自由な人間になりたいと思っている。過去のことで批判されたり、決め付けられたりしないように」

 バリオ18が支配する地区で20年間暮らしてきたエステバナ・マロキン(Estebana Marroquin)さん(50)は、このパン店の計画は「神からの贈り物」だと語る。「私たちは彼らが改心して街をうろつかなくなるように、町長が支援してくれていることにとても喜んでいます」

 パン作りの指導を行うベテラン職人のオスカル・リベラ(Oscar Rivera)さんはこのパン店について「若者たちは仕事に就く機会を与えれば、街をうろついたりしなくなるということを示してくれた」と語った。(c)AFP