【1月25日 AFP】米国立衛生研究所(US National Institutes of HealthNIH)は23日、実験動物としてチンパンジーを使用した医学研究への出資を打ち切る方針を発表した。60日間の意見公募を行った後に最終的に決定されるという。チンパンジーを用いた現在進行中の研究についても全て見直す計画だ。

 出資打ち切りについてNIHは声明で「医療研究におけるチンパンジーの使用は極めて選択的かつ限定的な数ではあったが、これまで人間の健康向上のために重要な役割を果たしてきた。しかし、生物医学界で開発された新たな手法や技術によって、いくつかの研究分野ではチンパンジーの使用に替わる方法が提供されている」と述べている。

 チンパンジーを使用した研究はすでにわずかとなっており、2011年ではNIHが出資した研究9万4000件のうち53件のみだった。

■先進国では米国だけ

 チンパンジーの実験使用は、日本、オーストラリアなど他の先進国に続き欧州連合(EU)も2010年に禁止した。先進国のうち今も医学研究にチンパンジーを用いているのは米国だけとなっている。

 今回の動きは、霊長類の実験使用に関する方針を見直しているNIHに再評価を要請された米国医学研究所(Institute of MedicineIOM)の勧告を、NIHが受け入れたもの。IOMは2011年の報告で、チンパンジーを使った動物実験の全面禁止こそ求めなかったものの、人間を実験対象とした研究が倫理的に不可能で、利用できる動物がチンパンジーしかいない場合などチンパンジー使用に制限を設けるよう勧告した。

 一方で同報告書は、C型肝炎ワクチンの開発や比較ゲノム研究、行動研究などの分野では依然としてチンパンジーを使用した実験が必要な場合もあると指摘していた。

 さらにIOMでは、チンパンジーを管理する際には自然の生息地か、それに似せた生態環境で飼育すべきだとも勧告した。

■チンパンジーにも快適環境を

 今回の発表でNIHは、研究用チンパンジー50匹の常時確保を求めているが、管理方法については群れでの飼育、通年で屋外に自由に出られること、1匹当たり約90平方メートルの生息密度確保など、快適な生息条件を具体的に定めている。

 米国の研究所には2011年時点で937匹のチンパンジーがいる。うち約450匹は政府関連の研究機関が所有しているが、NIHは昨年9月の発表で、2013年に110匹をルイジアナ(Louisiana)州の自然保護区に引退させる計画を明らかにした。同保護区にはすでに引退したチンパンジー109匹が余生を送っている。(c)AFP