【1月24日 AFP】今週行われたイスラエル総選挙では、選挙権を持たないパレスチナ人のために一部のイスラエル人有権者が投票権を「寄付」した。イスラエルとパレスチナの平和活動家らが共同で始めた政治的抗議運動「真の民主主義(Real Democracy)」の一環だ。

 パレスチナ自治区ヨルダン川西岸(West Bank)に住むパレスチナ人のムーサ・マリア(Mousa Maria)さんは、イスラエル人のシャハーフ・ワインバイン(Shahaf Weisbein)さんを通じてアラブ系イスラエル人政党バラド(Balad)に投票した。先月、議会除名処分の動議が出され議員資格はく奪の危機に直面した同党のハニーン・ゾービ(Hanin Zoabi)議員への支持を表明するためだ。

 選挙を前にAFPの取材に応じたマリアさんは「イスラエル人たちは、ゾービ議員をクネセト(イスラエル国会)から除名しようとした。ゾービ議員には支援が必要だと思う。パレスチナ人の中にも支持者がいると分かれば、議員も心強いはずだ」と語った。

 一方のワインバインさんは今月3日、投票権を「寄付」する考えを表明した。「何百万ものパレスチナ人が直接影響を受けている政府の決定や行動を、選ぶ機会が私にはある」と感じたからだという。ワインバインさんはソーシャルサイトのフェイスブック(Facebook)に、イスラエルの体制について「これは民主主義ではない。人種隔離体制だ」と書き込んだ。

「真の民主主義」創設に関わったイスラエル人活動家、シムリ・ザメレット(Shimri Zameret)さん(28)は、19歳のパレスチナ人青年に投票権を「寄付」した。この青年の希望は、選挙のボイコット。ザメレットさんは「僕は投票をしたかった。でも、ボイコットすべきという意見も筋が通っていると思う。選挙制度そのものに正当性がまるでないのに、参加すれば正当性を認めたことになるから」と、AFPの取材に語った。

 活動家らは「真の民主主義」について、本質的に非民主主義的な選挙制度への挑戦だと説明する。同運動は、「イスラエル政府はパレスチナ市民を統治しているが、パレスチナ市民によって選ばれてはいない。これは非民主的だ。民主主義とは、人々による人々のための統治だ」との主張を掲げている。

 ザメレットさんは国連(UN)改革も提唱しており、「真の民主主義」プロジェクトがきっかけで拒否権や代表権といった国連における「民主主義の欠如」に注目が集まることを願っている。「自国政府に反対するイスラエル国民の僕には、国連で訴える力がない。国連に加盟できるのは政府だけだからだ。でも、たとえば欧州連合(EU)には反対派を代表する人たちもいる」と述べる。

 ザメレットさんによれば、「真の民主主義」プロジェクトには非常に多数の賛同が集まったと同時に、イスラエル人を中心に批判も殺到した。運動そのものは支持するが参加はできないと伝えてきた慎重なパレスチナ人もいる。「イスラエルとパレスチナの共同プロジェクトへの参加は、難しいんだ。敵への協力者とみなされることを恐れる人たちもいるから」とザメレットさんは語った。(c)AFP/Sara Hussein