【1月10日 AFP】そこでは暗闇がすべてだ。ありふれた動作が突然、困難なものになる。どうやって自分の部屋のドアを見つけ、料理をし、道を渡ったらよいのだろう?

 ポーランドの首都ワルシャワ(Warsaw)で開催されている「見えざる展覧会」は、目が見えないとはどういうことなのか、理解を深める機会を提供している。来場者はガイド役の視覚障害者に導かれて真っ暗闇の会場をまわる。 「ここでは来場者が『目が見えない』人になる」と展覧会キュレーターのマウゴジャータ・ズモウスカさんは語る。

「(視覚以外の)感覚に訴えかけるインスタレーションのおかげで、暗闇の中に住むとはどういうことなのかを体験できます」

■五感を刺激する展示

 約1時間のツアーで、目が見える来場者たちは健全な想像力を要求され、この「見知らぬ世界」で嗅覚や聴覚、味覚や触角がいかに異なる機能を果たしているのかを知る。6部屋から構成される会場はひたすら暗闇だ。

 それぞれの部屋がアパートの一室や路上、博物館といった日常生活で出会う場を模している。路上を模した部屋では騒音が鳴り響き、車や街灯をよけながら進まなければならない。「森の中の小屋」の部屋には木の香りが漂い、小さな橋の下を流れる小川のせせらぎが聞こえる。最後の部屋は、視覚障害者がバーテンダーを務める騒々しいカフェだ。

 会場には明かりがついているコーナーもある。そこでは感覚を研ぎ澄ますゲームや、点字のように視覚障害者が日常生活で使う道具を体験できる。

■見えない世界は美しく豊か

「見えない世界とは美しく、豊かな世界であること、それから目が見えない人たちはユーモアのセンスを持ち、そこに人生と情熱があることを知ってもらいたい」とズモウスカさんはいう。「(目が見えないという)運命によって、社会から排除されることはないのです」

 この展覧会のアイデアはハンガリーからやって来た。ある女性が、事故で視力を失った夫の体験を分かち合おうと、自宅の明かりを消したことがきっかけだった。この女性の実験は、展覧会付きの社会事業となって首都ブダペスト(Budapest)で好評を博した。そしてチェコの首都プラハ(Prague)でも行われ、1年前にはこのワルシャワでも始まった。ポーランド語で「Niewidzialna Wystawa」と題されたワルシャワの展覧会はこれまでに3万人が訪れた。

 来場したある学生は「ものすごくパワフルだ。最初は自分のまわりで何が起きているか分からなくて怖かった。けれど幸い、目の見えない人たちの案内があったんだ」 と話した。

■「視覚障害者は普通の人」、10人中1人でも気づいてくれたら成功

 ガイドたちはガイド料を受け取っている。選択が限られている視覚障害者の労働市場にとって励みとなっている。「今までに就いた仕事で一番いいよ」とガイドの一人、パベル・コズロブスキーさんはいう。

 生まれた時から目が見えない31歳のパベル・オラブチュクさんは、教育学と社会福祉学を学び、音響技師として働き、ヘビーメタルバンドでドラマーをしている。オラブチュクさんにとってもガイド役は挑戦だ。「ガイドにとって一番大切なのは、すべてがスムーズで安全にいっていると感じてもらうこと」で、来場者が視覚以外の残りの感覚を発揮するのを助けるだけでなく「それを言葉だけで伝えなければならない。暗闇の中では身振りは見えませんからね」

「来場者が10人いたらそのうち1人だけにでも、視覚障害者は普通の人だと考えるべきだと気づいてもらえたら成功だ」とオラブチュクさんは、会場の出口に差し掛かりながら語った。「僕たちだって『またお目にかかりましょう』って言います。他にどんな言いようがあるでしょう?」(c)AFP/Stanislaw Waszak