【12月27日 AFP】脱原子力を求めるオンライン署名に800万人が署名し、街頭の抗議デモには数十万人が集まった。しかし、今回の総選挙で日本国民は、最も原発推進派寄りの自由民主党に地滑り的な勝利を与えた。

 東日本大震災がきっかけで起きた東京電力(TEPCO)福島第1原子力発電所の事故後、初めてとなるこの総選挙で、国民の怒りがまるで溶け去ってしまったかのように旧来の自民党政権が呼び戻されたことは、脱原子力派の活動家らにとって大きな痛手となった。

 NPO法人「原子力資料情報室(Citizens' Nuclear Information CenterCNIC)」の伴英幸(Hideyuki Ban)共同代表は、「大きな方向ではなく、具体的にいつ、どう(原発を)止めるかという議論になった」ことが問題だったと語る。「脱原発を目指すという基本的な事で一致するのが良かったのだけれど。党は党の存続をかけて、差別化することが必要であった。これはしょうがなかったのかもしれない」

■脱原発派政党、敗北の理由は

 第46回衆議院選挙は自民党の圧勝に終わった。小政党は原発の即時廃止や10年以内の廃止、30年以内の廃止などの公約を掲げたが、自民党が約束したのは今後3年以内に全原発の再稼働についての結論を出すことだけだ。財界寄りの自民党は電力会社にゴーサインを出す可能性が高いとの見方もある。東京電力の株価は総選挙後の2日間で50%ほど急上昇しており、市場にもこれと同じ見方が広がっていることがうかがえる。

 朝日新聞(Asahi Shimbun)は、原発以外の他の争点の方が重視されたことを問題点として指摘している。有権者は日本の景気低迷、巨額の公共負債、不安定な雇用情勢、中国との外交摩擦などにいらだち、与党・民主党による政策の失敗を罰するすべを探していたというのだ。

 一方、専門家の中には、多数の政党が乱立したことで有権者は混乱し、自民党を主とする馴染みのある名前や顔に投票することにしたのだと指摘する声もある。原発事故の起きた福島県でさえ、自民党は5選挙区のうち4選挙区で勝利を収めた。

 朝日新聞も、政党乱立により票が分散し、脱原発票がほぼ完全に中和されたと分析している。同紙によれば、投票した有権者の78%が、原発の即時廃止か段階的廃止を希望していたが、こうした人々の票は自民党以外の4政党に分かれ、さらには自民党にも票が流れたという。「自民以外の各政党は濃淡こそあっても脱原発を掲げているため、原発ゼロ票は分散」したと同紙は述べている。

 早い段階で選挙の勝敗がすでに決したかのようにみえたことが問題だったと主張する声もある。国際環境保護団体グリーンピース(Greenpeace)日本事務所のエネルギー・核問題担当、鈴木かずえ(Kazue Suzuki)氏は、「今回、連日すべての新聞で『自民が勝つ』と世論調査がでていた」と指摘。59.32%という記録的な低投票率も脱原発派には有利に働かなかったと付け加えた。

 また、国内政治に詳しい上智大学(Sophia University)の中野晃一(Koichi Nakano)氏は、シングルイシューの候補者は当選しにくいと分析する。中野氏によると、日本の政治文化は、組織化された支持層を持つ既存政党の候補者を好むため、無所属候補には厳しい選挙戦となる傾向があるという。

■再稼働あれば再び機運高まるか

 CNICの伴氏によると、活動家らは希望を失っていないという。新政権が原発の再稼働を始めれば、脱原発運動の機運が再び高まると考えているのだ。伴氏は、「脱原発の主張と、再生可能エネルギー、省エネ、これが気持ち的にも人々のなかでリンクしている」「もとに戻ることは無いでしょう」と語った。(c)AFP/Hiroshi Hiyama