【12月21日 AFP】ピエロの「ダッシュ」は凄腕のドクターではないかもしれないが、病棟に現われると子供たちの顔がぱっと輝く。

 ダッシュの正体は36歳のイスラエル人、ダビド・バラシさん。医師や看護師たちに、笑いは最良の薬になることを教えるため、ネパールにやって来た。「病院にいる時には、患者の病や辛さにばかり目を向けずに、健康な面、子供らしくあろうとする面に目を向けるべきだ。私たちの内面にはみんな、子供がいる。病院でピエロを演じることは、自分の子供の部分を表に出すことだ」

 これまでの研究で「ピエロ療法」によって、患者が子供でも大人でも痛みや不安が和らぎ、体外受精の成功率が上がり、血圧が下がり、認知症の高齢者により良い介護ができるという結果が示されている。

 バラシさんはイスラエル・ハイファ大学(University of Haifa)で「医療ピエロ」の学位を取得している。ネパールに来る前はエチオピアで孤児たちのために働き、アジアでは津波、ハイチでは地震を生き抜いた子供たちと過ごした。今は在ネパール・イスラエル大使館の招きで、首都カトマンズ(Kathmandu)の郊外30キロにあるドゥリケル病院で働いている。「医師や看護師にピエロになってもらうわけじゃない。一緒に協力するんだ。医師や看護師たちが僕を医療チームの1員だとみなしてくれなければ、うまくいかない」

 医療スタッフに曲芸を教えたり、ピエロの格好をするよう頼んだりはしないが白衣に、子供たちと仲良くなるきっかけ作りになるような、バッジやスカーフを着けてはどうかといった提案はする。「何か楽しいものを見つけて、それを子供たちに投げる。すると子供たちがそのロープをつかみ、そこから関係作りが始まり、遊び場のような環境ができる」

 ネパールは世界の最底辺に数えられる貧困国で、国民の半数以上は1日1.25ドル(約100円)の貧困ライン以下で暮らしている。2007年、ネパール政府は暫定憲法の中で基本的人権の一環として医療に関する権利を保障し、最貧層と弱者を対象に無償治療を導入したが、開発援助機関などによればいまだ4人に1人が基本的な医療を受けることもできていない。

 医師を雇い入れるには大きな資金がいるが、今いるスタッフに新たな「技術」を教えることはコストの割りに効果が大きいと、イスラエル大使館の担当補佐官は語る。この補佐官によれば、手術前後に「ピエロ療法」を受けると回復が最大30%早まり、特に子供で効果が大きい。「(スタッフたちへの)トレーニングで用いるのは、イスラエルで『面白おかしい』と思われることではなく、現地で『面白おかしい』とされるものだ」と言う。

 バラシさんは1年前にネパール人スタッフ30人にピエロの技を伝授し、イスラエルにいったん帰国した後、再び戻って20人程度のネパール人をトレーニングしたが、申し込みは定員を超えた。「良き聞き手」になることと、「直感的な思考」を身に着けることを目指して組まれた1日講習の間に受講者は明らかにやる気を起こす。要は医師や看護師たちに病棟の子供たちとどのようにコミュニケーションをとれば良いか考えてもらうこと、それから共感を育ててもらうことだ。

「病院でもう10年以上働いているけど、生き生きしていない医師や看護師たちを見てきた。僕たちピエロも疲れていたり、自分の生活の中のことで神経質になっている時だってある。だけど、ピエロの格好になれば元気になったように感じるんだ。ある病院では20年働いていて、ピエロ療法を受講した途端に子供たちのことが分かるようになった看護師もいた。彼女は『遊べる』ようになったんだ」(c)AFP/Frankie Taggart