【12月9日 AFP】英ウィリアム王子(Prince William)の妻キャサリン妃(Catherine, Duchess of Cambridge)が、重いつわりのために入院していたロンドン(London)市内のキング・エドワード7世病院(King Edward VII's Hospital)は9日、エリザベス女王(Queen Elizabeth II)の声色をまねて同病院に電話をかけたオーストラリアのラジオ局の行動について、「ぞっとする」ほどの愚行だと非難した。この一件を受けて女性看護師が自殺したとみられることに、イギリス中が慄然としている。

 この偽電話を受けた看護師のジャシンサ・サルダナ(Jacintha Saldanha)さん(46)は7日に死亡しているのが見つかった。サルダナさんは4日、豪ラジオ局「2Day FM」のパーソナリティー、メル・グレイグ(Mel Greig)さんとマイケル・クリスチャン(Michael Christian)さんからの電話を、キャサリン妃の状態が回復に向かっていることを漏らした同僚につないだ人物。この電話があった4日午前5時30分、病院の受付係は不在だったため、サルダナさんが電話を取ったという。

 病院の会長であるサイモン・グレナーサー卿(Lord Simon Glenarthur)はこの偽電話について8日、「可能な限り最も強い言葉で」抗議するため、2Day FMの親会社、サザン・クロス・オーステレオ(Southern Cross Austereo)のマックス・ムーア・ウィルトン(Max Moore-Wilton)会長宛てに、以下のような内容の書簡を送った。

「実際に電話したことはもちろん、当病院の入院患者について情報を得るため、司会者2人が嘘をつこうとしたこと自体が、非常にばかげている」「このようなことが実行されたというだけでなく、電話の内容が録音されており、ラジオ局経営陣の許可を得たうえで放送されたというのは、実に恐ろしいことだ」

 英南西部ブリストル(Bristol)にあるサルダナさんの自宅には、夫のベネディクト・バルボーザ(Benedict Barboza)さんと息子(14)、娘(16)を慰めるため、親戚や友人たちが集まっている。報道によると、一家は10年ほど前に、インドから移り住んだという。

■豪ラジオ司会者、死亡の知らせに「大きなショック」

 サザン・クロス・オーステレオの最高経営責任者(CEO)、リス・ホラーラン(Rhys Holleran)氏は番組司会者の2人について、「配慮したうえで」、当面は番組には出演させないことに決めたと説明した。

 豪メルボルンで報道陣の取材に答えた同氏は、「予見は当然不可能な、いたましい出来事だ。このことに、私たちは深い悲しみを覚えている」と述べ、パーソナリティーの2人はサルダナさん死亡の知らせに「大きなショックを受けている」と付け加えた。しかし、一方で同氏は、ラジオ局が法律に違反した訳ではないとの見解を示している。

 豪メディアは9日、サルダナさんの死が悲劇だとしながらも、「ヒステリックに責任追及すべき時」ではないと指摘した。

 シドニー(Sydney)で発行されているデーリー・テレグラフ(Daily Telegraph)紙は、「番組司会者の2人がサルダナさんを殺したわけではない」として、「珍しくもない英国メディアの狂乱」と酷評。また、コラムニストのピーター・フィッツシモンズ(Peter FitzSimons)氏は、同じくシドニーで発行されるサン・ヘラルド(Sun-Herald)紙で、これと同様の考えを示し、司会者を批判する人たちに、「落ち着くよう」求めた。「あの電話に悪意はあっただろうか?ぜひ、その点を考えてほしい」

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