【11月27日 AFP】健康問題に関する国連(UN)の専門家が26日、日本政府は福島周辺での放射能に対する懸念にもっと応えるべきだと述べ、放射能汚染で被害を受けた人びとの意見にも耳を傾けるべきと勧告した。

 国連人権理事会(UN Human Rights Council)の「健康を享受する権利」に関する特別報告者アナンド・グローバー(Anand Grover)氏は、福島県、宮城県などをめぐる12日間の視察を終えて記者会見に臨んだ。その中で同氏は、放射能汚染の恐怖にさらされて暮らす人びとに日本政府は直接もっと多くの情報を提供すべきだと語り、また「すべての地域社会が決定プロセスに参加すべきだ」と述べた。

 東日本大震災で起きた福島第1原子力発電所の事故は「人災」であるという国会の東京電力福島原子力発電所事故調査委員会(国会事故調、Fukushima Nuclear Accident Independent Investigation Commission)の見解をグローバー氏も踏襲した。

 グローバー氏は、政府と同原発の事業者である東京電力(TEPCO)が限界線量に関する的確な情報を提供しなかったことで混乱と損害を拡大したと述べ、政府が避難区域の指定に当初使用した年間20ミリシーベルトという基準値は「そこまでの実効線量ならば安全である」というように伝わったと指摘した。

 また現行の限界値と、チェルノブイリ(Chernobyl)原発事故の際の強制移住の基準値だった年間5ミリシーベルトには「一貫性」がないと述べ、これが「多くの地元住民の間に混乱を招き、政府発表のデータや方針に対する疑念が高まることにつながっている」と語った。

 混乱をおさめ人びとを安心させる方法を尋ねられたグローバー氏は、政府が専門家に頼りすぎないことだとし、「個人的には、専門家が知っているのは状況の一部だと思う。地域社会の参加が欠かせない」と述べた。

 同氏はまた、訪問中に「被害に遭った多くの人びと、特に障害者や若い母親、妊婦、子ども、お年寄りなどから、自分たちに影響が及ぶ決定に対して発言権がないという言葉を耳にした」とも述べ、健康管理調査の策定や避難所の設計、汚染除去の実施などすべての意思決定プロセスにその影響が及ぶすべての人たち、特に社会的弱者が十分に参加するよう日本政府に求めると表明した。
 
 またグローバー氏は現在、福島県民および災害発生時に福島県を訪れていた人々に限られている健康管理調査の対象を広げ、放射線汚染区域全体において実施することも日本政府に要請した。

 同氏は「残念ながら、調査範囲が狭い。これは、チェルノブイリ事故から限られた教訓しか活用されていない」と述べ、さらに「多くの疫学研究において、年間100ミリシーベルトを下回る低線量放射線でもガンその他の疾患が発生する可能性があるという指摘がなされている。研究によれば、疾患の発症に下限となる放射線基準値はない」と語り、日本政府に「慎重に慎重を重ねた対応をとること、また、包括的な調査を実施すること」を推奨した。(c)AFP/Kyoko Hasegawa