【10月29日 AFP】昔々あるところに、今度の主人公は「初の中南米系のお姫様」だと発表した米国の大手アニメーションスタジオがありました。そこに大きな悪い批判屋たちがやってきたので、ディズニー(Disney)は逃げ出してしまいました──。

 一部のファンたちは「Sofia the First(ソフィア・ザ・ファースト)」に初めてのラテンアメリカ系(ラティーノ)の主人公が登場することを喜んでいた。欧州はもちろん、アフリカ系米国人もアラブの人々も、アジア系や米先住民、人魚でさえ自分たちのディズニーのお姫様を持っている。そんななか、ついにラティーノのお姫様が誕生するのだ。

 しかし、アニメーションの一部が公開されると激論が勃発した。主人公ソフィアの肌は雪のように真っ白で、瞳は青色だったのだ。彼女は本当にラティーノなのだろうか?

 ディズニーはたちまち手のひらを返し、そもそもソフィアをヒスパニック(スペイン語を母語とする中南米出身者)の女性として描くつもりなどなかったと主張している。一方、ブログ界隈は賛否両陣営が相手側を非難するコメントで大炎上中だ。

■白い肌、青い瞳のラテンアメリカン

「Sofia the First」は2~7歳を対象としたキッズアニメで、11月にテレビ映画として放映後、2013年にシリーズ化される予定の作品だ。

 騒動が始まったのは先週のこと。ディズニーの重役が、同作に登場するお姫様はラティーノだと記者にぽろっとこぼしたのがきっかけだった。

 米誌エンターテインメント・ウィークリー(Entertainment Weekly)がソフィアの容姿について、本当にディズニー初のヒスパニック系のプリンセスなのかと疑問を呈する記事を掲載すると、中南米系メディア団体が声高に批判した。

 肌の色が間違っている、と全米ヒスパニック・メディア連合(National Hispanic Media Coalition)のアレックス・ノガレス(Alex Nogales)代表はFOXニュース・ラティーノ(Fox News Latino)に語った。「これを世間、特にラティーノ向けにプロモーションする気なら、われわれみんなのために本物のラティーノの女性にしてくれないか」

■「金髪に青い目の息子を否定しないで」 ネットで論争に

 これに対し、白い肌と青い瞳だからといってラティーノでないとは限らないと中南米系ブロガーたちの中から怒りの声が上がった。実際、中南米にはさまざまなルーツを持つ人々がいる。

 あるユーザーは米SNSフェイスブック(Facebook)の同作のページに、「私は濃い色の髪と瞳をしているが、私の息子は金髪に青い目だ。あの子だってラティーノで、それを否定されるような発言には腹が立つ」と書き込んだ。「誰かにとってのラティーノの条件に合わないからといって、ソフィアがラティーノでないということにはならない。そんな主張はむしろ侮辱的だ」

 金髪の米女優キャメロン・ディアス(Cameron Diaz)さんの祖先が中米キューバ出身だと指摘する人もいる。

 一方、全米ヒスパニック・メディア連合の見解を支持する人も多い。ある女性はこう書き込んでいる。「私の娘が自分に似ていると思えるラティーノのお姫様をいつかディズニーに作ってほしい」

 ディズニーはこれまで中国人の「ムーラン(Mulan)」や米先住民の「ポカホンタス(Pocahontas)」など、さまざまな民族を主人公に据えてきたが、中南米系だけは制作していない点に言及する人もいた。

 ジョージア大学(University of Georgia)セリグ経済成長研究所(Selig Center for Economic Growth)によると、米国には約5200万人の中南米系住民が暮らしており、その購買力は年1兆ドル(約80兆円)に上る。

■ディズニー撤回 「ファンタジーの世界だ」

 結局、ディズニーは発言を撤回し、ソフィアはラティーノではないとの見解を示した。

 ディズニー・ジュニア・ワールドワイド(Disney Junior Worldwide)の責任者、ナンシー・カンター(Nancy Kanter)氏は、「ソフィアが中南米系のお姫様か否かという最近の報道を見た人もいるかもしれないが、肝心なのは、ソフィアはおとぎ話に出てくる少女で、おとぎの国に住んでいるということだ」と述べた。

「われわれ(ディズニー)のキャラクターは全て、ファンタジーの世界からやって来る。ときにさまざまな文化や民族の要素を反映しているかもしれないが、どれ一つとして現実世界の文化を代表しているわけではない」

 ちなみにディズニーが否定した後、「Sofia the First」の脚本家クレイグ・ガーバー(Craig Gerber)氏は作品にちょっとした変更を加えた。それによると、ソフィアの母親が育ったおとぎの王国は「スペインからインスピレーションを得た」国だという。(c)AFP