【10月22日 AFP】中東の大手石油・ガス企業のコンピューターネットワークが、相次いで大規模サイバー攻撃の標的となり、サイバー戦争の様相を呈し始めている。

 イランの核開発計画阻止を狙ってサイバー攻撃を展開してきたとみられている米国とイスラエルだが、今や自国がサイバー攻撃の標的になることを懸念する羽目に陥っている。

 イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ(Benjamin Netanyahu)首相は今月に入り、詳細には触れなかったものの、イスラエルのコンピューターネットワークにサイバー攻撃が試みられることが増えていると発表した。その数日前には、米国政府がサイバー戦争における方針の概要を明らかにするとともに、イランのサイバー攻撃に警告する声明を発表していた。

 レオン・パネッタ(Leon Panetta)米国防長官は前週、8月15日にサウジアラビアの国営石油会社サウジ・アラムコ(Saudi Aramco)のコンピューター30万台以上に被害を与えたウイルス「シャムーン(Shamoon)」について、公の場で初めて言及した。この攻撃でサウジ・アラムコは主な社内ネットワークが回復するまでに2週間を要した。

 パネッタ長官は、シャムーンは非常に高度なウイルスで、民間企業を対象としたウイルスではこれまでで最も破壊力が強いと述べた。米石油大手エクソンモービル(Exxon Mobil)とカタール・ペトロリアム(Qatar Petroleum)の合弁企業ラスガス(Rasgas)も、シャムーンの攻撃を受けている。
 
■「サイバー真珠湾攻撃」に備える米国

 サウジ・アラムコは8月のサイバー攻撃による生産への影響はなかったと説明しているが、サイバー攻撃によって必要不可欠なインフラがまひ状態に陥りかねないという脅威は現実のものだ。パネッタ長官はこうした脅威を「サイバー真珠湾攻撃」と呼び、サイバー脅威に対して攻撃的に対処する方針を示した。

 サウジアラビアの原油輸出が妨げられれば、すでに高値で推移している原油価格はさらに高騰し、脆弱化した世界経済を景気後退に追い込むだろう。

 ある米政権幹部は匿名を条件に、湾岸諸国の大手石油企業に対するサイバー攻撃は「国家」によって行われたとみられ、最も疑われているのはイラン政府だとAFPに明かした。

 米シンクタンク「戦略国際問題研究所(Center for Strategic and International StudiesCSIS)」のシニア・フェローで、米国務省など米政府機関でサイバー攻撃の安全保障問題を担当した経験もあるジェームズ・ルイス(James Lewis)氏は、サウジ・アラムコに対する8月の攻撃にイランが関与したことは「疑わしい」というレベルを超えているというのが米政府の見方だと述べた。

■サイバー戦争能力を急速に増強するイラン

 ルイス氏によると、米当局はロシアや中国によるサイバー情報収集活動には慣れていたものの、イランのサイバー戦争能力がこれほど急速に増強されたことに驚いているという。 

 だが、2010年にコンピューターウイルス「スタクスネット(Stuxnet)」の攻撃を受けてウラン濃縮施設の遠心分離器が数百台も破壊されてしまったイランが、サイバー戦争能力の強化に走ったとしても不思議ではない。

 スタクスネットはイランの核兵器開発を阻止する目的で米国とイスラエルが共同開発したとみられている。それまで組織犯罪や情報収集活動に使うものだと思われていたコンピューターウイルスをサボタージュの道具にしたという点で、スタクスネットはコンピューターウイルスの概念を変えた。

 イランは4月にもハールク(Kharg)の石油施設がサイバー攻撃を受けたほか、前年11月にミサイル基地で起きた爆発事故もコンピューターウイルスが原因だったと米メディアは報じている。(c)AFP/Patrick Rahir