【10月19日 AFP】官能的な描写が話題となり世界的大ヒットとなった小説『フィフティ・シェイズ・オブ・グレー(Fifty Shades of Grey)』──現在その「目立たなさ」を背景に、電子書籍版を通じた熱烈な女性ファンが増えているという。

 世界最大の書籍見本市「フランクフルト国際ブックフェア(Frankfurt Book Fair)」でも堂々と並べられた多くの官能小説。これら官能小説は、昨今の電子書籍の登場で特に大きな恩恵を受けているようだ。

 これまでに『完全なる従順』『熱くなる体温』『暗い欲望』といったタイトルを手掛けてきた英国の専門出版社「エキサイト(Xcite)」。その親会社であるアクセント・プレス(Accent Press)のピーター・フェリス(Peter Ferris)非常勤取締役は「官能小説は電子書籍にとって理想的なジャンルだ」と評価する。だがその一方で、「エキサイト」は今や英国最大の官能小説の出版社だが「印刷書籍の売上は落ちている。大書店に並べるのは大変だ。書店は在庫を嫌い、買ってくれる読者にまで届くのは至難の業だ」と内情を語った。

 しかし2011年、卒業間近の女子大生と裕福な若手実業家との関係を描いた『フィフティ・シェイズ・オブ・グレー』が登場した。英作家E・L・ジェームズ(E. L. James)による3部作第1弾が売上ランキングを上り始めるのと同時に、電子書籍の売上も「大々的に」増えた。

 同取締役は「官能小説に対する世間一般の認知度が高まった。より『主流』に近づき、受け入れられやすくなった。もはや話題にできないものではない。ベストセラー・チャートにあるのだからね」と満足げだ。「エキサイト」の今年の売上は、電子書籍が印刷書籍の3倍となることを見込んでいる。

 自分の名前を冠した出版社で官能小説を担当するドイツの女性編集者ヨランタ・ゲッツァニス(Jolanta Gatzanis)氏も「今年はたいして宣伝もせずに電子書籍がたくさん売れた」と驚きを隠せない。ドイツでは現在、インターネット上で4000タイトル以上の官能ジャンル書籍を購入できる。出版社や著者のためのサービス・プロバイダー「ザルツワイス(Satzweiss)」のロマン・ヤンセン・ヴィンケルン(Roman Jansen-Winkeln)氏は「なかには良質なものもあるが、多くの平凡な作品は印刷されない。ホラー小説と似たようなもの」だと話す。

 官能小説の読者は圧倒的に女性が多い。ヤンセン・ヴィンケルン氏によれば、読者の8割は女性だという。アクセント・プレスのフェリス氏も「実際の読者を調べてはいないが、作家は女性(の読者)を念頭に執筆しいている。女性のために女性作家が書いているものがほとんど」だと述べた。

 (成功の)鍵となっているのは「目立たない」ことのようだ。人前で読んでいても電子書籍なら表紙を見られることもなく、何を読んでいるか分からないからと指摘するのは、官能小説大手出版社ジャーダス(Giadas)を率いるジャーダ・アルマーニ(Giada Armani)氏。「女性たちはいつの世でも官能小説を読みたがってきたのではと思う。ただ地下鉄や職場では、裸の男性のシルエットが表紙になった本をひけらかしはしないでしょう」

 アクセント・プレスのフェリス氏は、書店に行かなくても、匿名性を保ったままダウンロードできる点も電子書籍の人気の一つだと語る。「読み終わったら消去してしまえば、何を読んでいたか、誰にも分かりませんしね」(c)AFP/Frederic Happe