【10月12日 AFP】台湾北部・桃園(Taoyuan)県にある由緒ある道教の寺、五福宮(Wu Fu Temple)の境内で、肌もあらわなビキニ姿の女性ダンサー2人がネオンライトを浴び、大音響のダンスミュージックに激しく体をくねらせて踊っている。夜空に打ち上げられた花火がステージを妖しげに照らし出す。老若男女入り交じった観客を前に繰り広げられるショーのクライマックスは、2人のポールダンスとストリップ。――この2人の仕事は、「さまよえる霊を鎮めること」だ。

「なかなかきつい仕事だけど、生活費を稼がないとね」と、ショーを終えたばかりのダンサーの1人、エンエンさん(18)は息をはずませながら語った。エンエンさんが1回のショーで稼ぐ金額は3000台湾ドル(約8000円)ほど。最初はステージの上で踊るが、ショーの終盤には観客のところまで降り、「おひねり」をもらうために男性に尻をさわらせたりもする。

 台湾の土着信仰は、精霊信仰と世俗性が融合している点が特徴だ。なかでも祭りや結婚式に女性ダンサーを呼び、踊らせるという独特の慣習がある。ダンサーたちは慶事だけでなく葬式にも呼ばれる。花や電飾で飾り立て、音響設備を完備したトラックが即席ステージとなり、小さな町や田舎の村々を周って宗教行事に参加する。

「ダンサーたちのおかげで宗教行事に人々が集まります。それに彼女たちは、神や精霊の祝福を得るため踊ってくれるのです」と、五福宮の関係者は語る。「彼女たちは道教信仰と民俗文化の一部になっています」

 こうした女性ダンサーを呼ぶ慣習は、1970年代から顕著になった。台湾人の中にも、この慣習をショッキングで俗悪だと批判する人はいる。だが、性と宗教の境目があいまいな台湾古来の文化の自然な延長線上にあるものと捉える人が大半だ。

 米サウスカロライナ大学(University of South Carolina)の人類学者で、2011年に葬式で踊る台湾のダンサーを主題としたドキュメンタリー映画『ダンシング・フォー・ザ・デッド(Dancing for the Dead)』を発表したマーク・モスコウィッツ(Marc Moskowitz)氏はこの慣習について、催事には大勢の人が参加してにぎやかに騒ぎ、楽しく注目を集めるものにするのがよいという中華圏の伝統文化から生まれたものだと指摘。「(葬式での)踊りを見ていて、誰かの人生をたたえることで悲しみを和らげようという発想の素晴らしさを知った」と述べている。(c)AFP/Amber Wang