■捜査の鍵となる子どもの写真もなく…

 バガット報道官によると、貧困家庭の親たちの中には、警察に通報することさえ怖がる場合もあるうえ、警察が証拠として提出を求める子どもの写真がない事例が大半を占めている。

 子ども誘拐の危険を誰よりもよく知るのは、ニューデリー市内の小売店主の息子、シャラト・クマール(Sharath Kumar)君(12)だろう。クマール君は9歳の時に誘拐されかけた経験を持つ。

 当時、クマール君は学校で母親の迎えを待っていた。すると突然、年配の男に頭から黒い布をかぶせられて、身体ごと引きずり込まれた。「騒いだら殺すと脅された」という。幸いクマール君の悲鳴を聞きつけた若者たちがクマール君を助け出し母親のもとに連れて行ってくれたため、誘拐は未遂で終わった。母親は「息子は本当に運が良かった。でも家に帰ってからもショック状態で、長い時間泣いていた」と当時を振り返った。

 この事件によって、クマール君の母親が学んだ重要な教訓がある。誘拐未遂事件を受けて、警察は母親にクマール君の最近の写真を提出するよう求めた。だが、クマール君の写真は1枚もなかったのだ。母親は「不用意だった自分と夫を恨んだ」という。今では2人の息子のポートレートサイズ写真を半年ごとに撮影していると、クマール君の母親はAFP通信に語った。

 捜査当局によれば、証拠となる失踪した子どもの画像なしには捜索は、まず不可能だ。ニューデリーの上級警察官、V・レンガナタン(V. Renganathan)氏は「犯罪組織の大半は6歳から13歳の子どもを標的としており、写真がなければ追跡できない」と話す。レンガナタン氏は、貧困地区で記録用に子どもたちの写真を撮影し、焼き増し写真を家族らに配布する活動を立ち上げている。活動の目的は「貧しい地区に住む弱い立場の子どもたちを守ること」だという。インド国内に「何百万とある貧困家庭では、子どもの写真を撮影するなど、考えることさえ難しい」からだ。

 ピンキーさんも、警察に行方が分からないままのシバム君の写真を提出した。後はただ、捜査が進展したとの知らせを待つだけだ。「毎朝、息子の帰りを待つために目覚め、夜は息子の帰りを待ちながら眠りにつく。今は待つことだけが私の生きる術なんです」(c)AFP/Rupam Jain Nair