【9月14日 AFP】南米アマゾンで文明社会から隔離された先住民ヤノマミ(Yanomami)の人々が住む集落イロタテリ(Irotatheri)。このアマゾンの奥地に前週末、突如として「訪問者」たちを乗せたヘリコプターが舞い降りた。乗っていたのはベネズエラ政府が招待した報道陣だ。

 前月、先住民の権利擁護団体らが「ブラジルから不法入国する金の採掘業者によって、7月にヤノマミ人80人が虐殺された」と報告。これを受けてベネズエラ政府は前週、軍を派遣した調査を行い、その結果としてウゴ・チャベス(Hugo Chavez)大統領は「虐殺の証拠も、先住民たちの証言も出てこなかった」と発表した。

 しかしアマゾン州の先住民連合体「COIAM」は、ヤノマミの集落はジャングルに阻まれた辺境にあり、往復には日数を要すると主張。調査団が短期間で調査結果を発表していることから、実際に調査団は集落を訪れたのかと疑問を呈し、ベネズエラ政府に調査の継続を求めた。

 さらに、ロンドン(London)を拠点とする先住民支援組織「サバイバル・インターナショナル(Survival International)」から度重ねての取材要求を受けて、ベネズエラ政府は7日から8日にかけて報道陣を現地取材に招待した。

 アマゾンの奥深い地にあるにもかかわらず、集落はブラジル国境まで19キロしか離れていない。このため、金やダイヤモンドを求めてブラジルから違法採掘業者たちが越境してくる。COIAMの説明によれば、これまでヤノマミの人々はそうした違法業者たちの暴力や脅迫、誘拐の犠牲となってきたという。

■記者らを警戒しない集落の人々

 記者らが訪れた集落は、中心部の空き地を囲んで7軒の小屋が建ち、約50人のヤノマミの人々が住んでいた。

 ヤノマミ人は通常、裸で暮らしている。だが、報道陣が訪れた日は、前もって現地入りしていたニシア・マルドナド(Nicia Maldonado)先住民問題担当相から渡された赤い布をふんどしや鉢巻きのように使ったり、子どもの背負い布にしたりと思い思いに身に付けていた。

 先住民集落での医療活動を学ぶために滞在している修習生オスカル・ペレスさんによれば、ヤノマミの人々はヘリコプターがやってくると、その音に驚き、蜂の子を散らすように逃げるという。だが今回の取材では、不思議なことにヤノマミ人たちは全く警戒する様子を見せずに記者らに近づき、あいさつの印として「新参者」の胸を軽く叩いて歓迎の意を示した。

 AFP取材陣が訪れたこの集落に限って言えば、暴力や虐殺の痕跡はまったく見られなかった。代わりに記者らが見たものは、顔に黒いしま模様を施した集落の人々による歓迎の舞踏だ。彼らは自慢の品である狩猟道具も見せてくれた。

 報道陣に対し、周辺に住む男性は通訳を務める猟師を通じてスペイン語で「虐殺なんて起こってない。平和だよ」と語った。

 写真を撮ろうとすると、子どもの目を覆い隠す女性たちもいた。それは子どもたちの魂が盗まれることを恐れてのことだと、通訳者から説明された。

 医療修習生のペレスさんによると、この集落の住民は継続的に焚き火の煙にさらされているため、慢性的に呼吸器疾患や結膜炎に悩まされているという。

 15人からなる軍の調査隊第1陣を率いてイロタテリ入りしたオルランド・ロメロ中佐は、一行はイロタテリにたどり着くまでアマゾンの密林を7日間歩き続けたと語った。「こうした集落への到達は非常な困難と危険を伴う」。中佐によれば、ヤノマミ人たちは兵士たちを見て怖がったという。

■「ヤノマミ人は2つまでしか数えられない」
 
 この国境周辺の広大な辺境地帯には、イロタテリの他にも数百のヤノマミ人の集落があると、民族言語学者のマリクロード・マッテイ・ミュラー(Mari Claude Mattei Muller)氏はいう。「ベネズエラ側に1万5000人、ブラジル側に2万人のヤノマミ人がいると考えられている」が、正確な統計はベネズエラにはないとミュラー氏は付け加えた。

 ミュラー氏によると、ヤノマミ人が数える数字は1と2だけで、それ以上はすべて「多数」と表現するという。このため、ミュラー氏はヤノマミ人「80人」が殺されたという報告は根拠が薄いと述べた。また、接触のある集落からは「何かが起きた」らしいことは伝え聞いたが、何らかの可能性を確認もしくは排除できる情報は何も得ていないと語った。(c)AFP/Leo Ramirez and Valeria Pacheco