【8月31日 AFP】豪政府が出資する科学コンソーシアム「バイオニック・ビジョン・オーストラリア(Bionic Vision AustraliaBVA)」は30日、生体工学(バイオニクス)で作られた人工眼を患者に埋め込む手術に成功したと発表した。

 遺伝性の網膜色素変性症(RP)が進行して失明したダイアン・アシュワース(Dianne Ashworth)さんの網膜に人工眼の「初期試作品」を埋め込んだという。埋め込まれた「前バイオニック眼」と呼ばれる小さな装置には、視神経細胞を刺激するための電気信号を出す電極が24個付いている。

 アシュワースさんは声明の中で、埋め込み手術から完全に回復した後の7月に研究者たちが研究室で装置のスイッチを入れたとき、信じられない体験をしたと語った。「最初は何が起きるか予想できませんでした。けれど突然、小さな光が見えたんです――感動しました」「刺激が与えられるたびに、私の目の前にさまざまな形が現れました」

 埋め込み手術を行ったペニー・アレン(Penny Allen)医師は、「世界初」の試みだったと話している。この人工眼は研究室の機器に接続された状態でしか機能しないが、BVAのデービッド・ペニントン(David Penington)会長はこの人工眼を使って視覚イメージが脳と眼によってどのように構築されているのか調べていくと話している。

 研究チームは現在、建物や車などといった大きな物体を知覚できるほど広い視野の98個の電極を持つ装置や、人の顔や大きな文字を見分けられる程度のより高い視力を実現する1024個の電極を持つ装置の開発に取り組んでいる。BVAは、1024個の電極を持つ装置は網膜色素変性症や加齢黄斑変性症の患者に適したものになるだろうと話している。

 ペニントン氏は、アシュワースさんからこれまでに得られた結果は「われわれの最善の期待を満たすもので、開発を進めれば実際に役に立つレベルの視力を達成できるという自信になった」と語り、「完成形の装置の埋め込み」に着手した時が次の大きなステップになるだろうと述べた。(c)AFP