【8月15日 AFP】欧州経済危機、そしてオーストラリアの干ばつの影響に関する調査の両方から、不況期には自殺率が8~15%増加する傾向が明らかになった。

 英国では2008~10年の自殺者のうち、不況の影響による自殺が約1000件に上ったと推計する論文が、英国医学会会報「BMJ」に掲載された。

 経済危機前まで英国の自殺率は減少傾向をたどり、2007年の年間自殺者数は過去20年間で最少の4006人だった。しかし失業率の増加と並行するように、08年には4292人、09年には4388人と増加に転じた。再び自殺者数が減少し4206人だった2010年には、失業率も下がっていた。

 論文の共著者である英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院(London School of Hygiene and Tropical MedicineLSHTM)のデビッド・スタックラー(David Stuckler)氏によると、研究チームは欧州経済危機前の減少傾向が続いていた場合に予測された自殺者数と、実際の自殺者数の差を推計した。その結果、3年間合計で男性846人、女性155人の自殺は、経済危機がなければ起きていなかっただろうと結論した。経済危機が発生した08年の自殺者数は、前年比で男性では8%増、女性では9%増えていた。

 一方、米科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of SciencesPNAS)に発表された別の論文ではオーストラリアの研究チームが、同国の干ばつ時には地方部の30~49歳の男性における自殺の相対リスクが15%高まると発表した。

 オーストラリア国立大学(Australian National University)他の研究機関が1970~2007年のニューサウスウェールズ(New South Wales)州のデータを分析したところ、干ばつによって農場経営者や農業従事者の自殺率が高まるという仮説に対する「明白な証拠」を発見したと論文は述べている。

 英国、豪州どちらの研究でも、不況期の自殺の増加は女性よりも男性のほうが多かった。これについてスタックラー氏は、男性のほうがうつ病になっても支援を求めない傾向があること、また男性としてのアイデンティティーが「仕事を持つ」ことに大きく負っていることなどから説明しうると述べている。

 英国の研究者たちは「高失業率が続けばそれによる人的損失が、予算削減で見込まれる利益を上回るリスクがある」として、不況時に失業した人たちの再就職を促進しようとする英政府の政策を強く推している。(c)AFP