【8月14日 AFP】イスラエルの刑務所に服役中の夫から、ひそかに送られた精子で妊娠したパレスチナ人妻が13日、ヨルダン川西岸(West Bank)ナブルス(Nablus)の病院で男児を出産した。

 この女性はヨルダン川西岸北部に住むダラル・ジベン(Dallal Ziben)さん(32)。イスラム原理主義組織ハマス(Hamas)に属する夫のアマル(Ammar)さん(37)は32の終身刑判決を受けて現在、イスラエル中部ハダリム(Hadarim)の刑務所で服役中だ。ジベンさんは15年間も夫の顔を見ていない。

 だがジベンさんは、ひそかに刑務所外に持ち出された夫の精液で人工授精して妊娠し、13日に無事男児ムハナド(Muhannad)くんを出産した。

 帝王切開による出産に臨む直前、ジベンさんはAFPの取材に「刑務所にいて夫が長年不在でも、わたしたちに恵みをかけてくださったアラーにたたえあれ。夫も2人の娘たちも家族みなが長いこと、この時を待ち望んでいた」と語った。

 夫のアマルさんが逮捕されたとき、娘のバシャエル(Basha'er)さんはまだ1歳半で、2人目の娘ビサン(Bissan)ちゃんはジベンさんのお腹の中にいた。いまでは16歳になるバシャエルさんは、「とても嬉しい。15年間で我が家に初めて本当の幸せが訪れた」と喜びを語る。「母は人工授精でわたしたちのために弟を産んでくれると言ったけど、とても信じられなかった。わたしたち姉妹はずっと弟が欲しかったから、その夢がかなった」

■精液を持ち出した方法は秘密

 一方、ジベンさんや家族らは、イスラエルの刑務所からアマルさんの精液が持ち出された経緯については固く口を閉ざし、ごくささいな情報さえも語ろうとしない。

 イスラエルの矯正当局は、ジベンさんの妊娠に至る経緯については承知していないとしたうえで、重罪犯を収容する刑務所では服役者と配偶者との面会は認めていないと強調した。

 ナブルスを拠点にイスラエルの刑務所におけるパレスチナ人収容者の人権状況を追跡するNGO「Palestinian Prisoners' Club」も、「収容者の妻の面会は常に看守の監視下にあり、2人きりになることは不可能」とのコメントを出した。

 ナブルスの医院でジベンさんの人工授精を手がけた医師によると、ジベンさん夫婦は男児を望んでいたため、精液には確実に男児が生まれるよう男女産み分け措置が施された。人工授精は2回失敗し、3回目で成功したという。

 精液を入手した経緯について、この医師は「信頼性が高く、医学的に安全な方法で(ジベンさんの)夫から受け取った」とAFPに説明し、それ以上は語らなかった。(c)AFP/Imad Saada